その言葉が聞きたかった。


私が口元に笑みを浮かべると、好未ちゃんは、はっとなったように慌てて口元に手をやった。そして私を睨むと

「タバコの指紋は………嘘……?」と低く唸った。「卑怯よ、嘘まで着いて陥れるなんて!」

「卑怯?どっちが?あなたは陽菜紀に計画をそそのかして、鈴原さんを犯行に追い立てた。好未ちゃんはあの日、陽菜紀が殺された日、陽菜紀と鈴原さんが会うことを知っていた。だから“保険”で事前に手に入れた沙耶ちゃんのタバコを置いておいた。当日でなくてもいいし、たまたま発見された場所がシンクだったけれど、もう一度探したら至るところに沙耶ちゃんの吸い殻が見つかる筈。
万が一自分に捜査の目が向けられないように。
優ちゃんも、沙耶ちゃんも、麻美ちゃんも、巻きこまれて、結果破滅したわ。
あなたの企てた策略のためにね」

私が一気に言い切ると、好未ちゃんは悪びれた様子もなく「ふん」と鼻を鳴らし

「私は陽菜紀に“アドバイス”をしただけよ。あんたとずっと一緒に居る方法があるって。そのために山田くんが邪魔だと言うことを。
山田くんがあのホテルで働いていたのを知ったのは偶然よ。でも近い場所だったからあんたと山田くんが遭遇する確立だってあったかもしれない。先手を打ったら?と言っただけよ。
優子も沙耶香も麻美も、破滅したのは自業自得よ。私は何もしていない」

薄く笑いながら足を腕を組み、椅子の背に背中をもたれさせた。

確かに好未ちゃんは直接手を加えたわけではない。例え沙耶ちゃんのタバコの吸い殻を陽菜紀が殺された現場に、好未ちゃんが置いたことを立証されても罪にならないだろう。

好未ちゃんがやったのは“殺人教唆”や“殺人幇助”に当たるだろうが、法で裁くのは恐らく難しいだろう。好未ちゃんはきっと「殺せばいい」なんて言ってないだろうし。

「悪魔ね」

私は静かに言いコーヒーのカップを再び手にとった。その取っ手を掴む手に力が入った。

「悪魔!?あんたが言う!?」

はっ!と好未ちゃんは吐き捨てた。

「私はあんたこそ“悪魔”だと思うわ。昔っからそう!あんたは鈍感でそれでいて弱いふりをして、周りに守ってもらうことばかり考えてた!しかも偽善者だしね」

好未ちゃんの言葉に私は顏をしかめた。

「そんなことはない」と言い切ったが

「今回の件だってそう。ことの発端は山田くんがあんたのこと忘れられなくて起きたことなのよ!
陽菜紀があんたと一緒に居たいと思って起きたことなのよ!全部知ったのに、それでも違うと言いきれる!?」

そう言われて、確かに原因は私にあったかもしれない。私さえ居なければ、と極限状態のときに思った。

「だったら私を殺せば良かったじゃない。好未ちゃんは私のことが嫌いなんでしょう。だから今回の事件を、裏で糸を引いていた。私が傷つけばいい、と。運が良ければ私が死ねばいい、と。
そう思っていたんでしょう」

そう、最初からそうすれば良かったものの、私の周りの人をたくさん傷つけ奪って行った。でもそれこそが好未ちゃんのしたかったことかもしれない、と今になって思う。

「そうよ、あわよくばあんたが死んでくれればいいと思ったわ」と好未ちゃんは友達の悪口を言うぐらい、あっさりと言った。