腹部の術後経過も良く軽度の火傷も痕になることなく、私はその二週間後退院できることになった。退院手続きの為、母親が来てくれることになっていて、その前に私は着替えなどの荷物をまとめているときだった。

個室の扉をノックする音が聞こえて返事をすると、顔を出したのは曽田刑事さんだった。

刑事さんはいつものくたびれたスーツではなく、いつか見たパーカとジーンズと言う姿で、手には小さな花束を持っていた。

「退院ですか?おめでとうございます」

「ええ、ありがとうございます。そちらは?非番ですか?」

「はい。しばらく“L事件”でバタバタしてたんで、少し休暇を……あの、これ……もう退院だと窺いましたので遅いかもしれませんが…」と刑事さんがぶっきらぼうに小さな花束を突き出してきて、私はそれを受け取った。

それは赤い薔薇の花束だった。

「花屋に行ったのはじめてでして……若い女の子が好きそうな花とか……何が良いのか分からず店員に聞いて……
知らなかったんですが、花言葉も花の色に寄って異なる、とか。
柄にもないことしてるって分かってるんです……慣れてないって言うか……ぶっちゃけ女性に花を贈ること自体初めてで…」

刑事さんはしどろもどろ言って頭の後ろをがしがしと掻く。

赤い薔薇の花ことばは“情熱”、“あなたを愛しています”

「つまり……その……こんなタイミングで言うのもなんですが…」と言い辛そうに俯いた刑事さんに

「今度、お食事でもどうですか?
一張羅のスーツも豪華な花束もいりません。ただ、あなたと普通に
デートがしたいんです」

私が微笑んで刑事さんに言うと刑事さんはぱっと顏を上げた。

その顔がこっちも驚くほど赤く染まっていて、「へ!?」と間抜けな声をあげて刑事さんは口を開いている。

「デート、しましょう」

もう一度はっきりと言うと、刑事さんも「はい」と照れくさそうに笑って再び頭の後ろを掻いた。