「鈴原はあなたの名前で厚木 優子と片岡 伸一の不倫現場の写真をテレビ局に送ったことも認めています。それなのにタバコの件に関しては否定している。
荒井さんが愛煙家だったことも、あなたと喫茶店に行った際にはじめて知ったと言っていました。まぁそこまで認めているので、タバコの件に関して否定する理由も見つからなく、それは本当のことだと我々も思っていますが。
それと―――ヤツの最終計画は灯理さん、あなたを説得して二人で逃げようとしていたらしいです」
曽田刑事さんの言葉に私は目をまばたいた。
「私が?あんな殺人犯と一緒に逃げるなんて……どう説得されても無理に決まってます」
「鈴原はあなたと気持ちが通じ合っていると思い込んでいたようです。万が一抵抗されたり拒まれたりしたら、あの家を燃やして二人で死ぬつもりだったのでしょう」
やっぱり―――
それは身をもって証明された。
「と、まぁそこまでは大方筋の通った自供ですが、その後鈴原はまるで何かに怯えるように『陽菜紀が居る』と叫び、我々も手をこまねいています。心神耗弱を狙って刑の減刑を狙っいるのかと思って精神科医に鑑定を申し出たのですが、あの怯えようは演技ではなさそうだ、と」
鈴原さんは確かに陽菜紀を見たのだ。最後の最後に。私と陽菜紀、二人でL事件を終わらせることができたのだ。
だけどタバコの件は、一体誰が、何の為に―――
たった一つだけの謎を残したまま、事件は終息した。
鈴原さんが逮捕されてからテレビでは二週間程はその話題で持ち切りだった。マスコミは一連のL事件の犯人……鈴原さんの動機を「通り魔」と扱い、今回の陽菜紀の事件に関しては五年前の事件を知られたから、口封じしたと伝えている。その報道の中に私の名前や存在はほとんど公表されていない。
ただ、鈴原さんが最後に狙った「通り魔」の“たまたま”餌食になりそうだった私が犯行直前で、警察に助けられたとだけ。事実はかなり捻じ曲げられていたが、正直ほっとしている。
鈴原さんは“L事件”の犯人、と言う名前に加えて『日本の切り裂きジャック』とレッテルが追加され騒がれていた。町の若い女の子たちにインタビューも答えていて
『若い女の人を狙うなんて、本当に怖い事件です。逮捕されて安心してます』
と、みな口々に言っている。
入院中、通り魔の獲物になった私の噂を知ったのか会社の同僚たちが見舞いに来てくれた。みな一様に心配と、無事だったことに安堵もしてくれた。
好未ちゃんも来てくれて同様に心配してくれた。ただ、鈴原さんが『山田くん』だったことを彼女には伝えていない。
沙耶ちゃんは―――
まだ意識が戻らず、入院中と言うことを好未ちゃんから聞いた。
沙耶ちゃんだけでも救いたい。その願いが通じたのか通じてないのか、分からない。



