その一つに鈴原さんがどうやって陽菜紀のマンションに出入りしたのか、と言うこと。そのトリックは思ったより簡単で、あのマンションの住人の数戸の名前で17:00頃、ピザのデリバリーを頼んだと言う。そのデリバリー業者が出入りするときを狙って、また業者を装って自動扉をくぐったようだ。監視カメラには宅配業者を装い変装までしていたから、判別に時間が掛かったと言う。

L事件のことを教えてくれたのも確か鈴原さんだった。確か知人に雑誌記者が居るとか言ってたけど……

「それはどうやら本当のことです。鈴原のアルバイト先の一つが雑誌社でそこで雑用などをこなしていた際に仲が良くなかったとか」

なるほど……じゃぁ全部が全部嘘ではなかったと言うわけね。

それから、陽菜紀のマンションに鈴原さんが出入りするのはこれが初めてではないらしい。陽菜紀は鈴原さんの弱みを握って、数回彼をあのマンションに呼び出し、そして脅していた。

脅しの内容は「お金」ではなく、私たちの目の前から消えろ、と言うものだった。さもなければ私に全てをバラすと。それは陽菜紀が殺される一か月程前から三回あったと言う。

鈴原さんを呼び出す際、陽菜紀は暗号で「ワイン」と使っていたようだ。それをご主人が盗み聞いていて、陽菜紀の方も浮気相手が居る、と勘違いされたみたい。

「でも……よく考えたら陽菜紀も大胆なことをしたんですね。だって殺人鬼を自ら家に入れるようなものでしょう。私だったら怖くてできません」と私が曽田刑事さんに聞くと

「片岡 陽菜紀は外で鈴原と会って誰かの目に留まるかもしれないことを懸念していたらしいです。万が一君の目についたら片岡 陽菜紀の計画は全て水の泡だ。家が一番安全だと踏んだのだろう。
それに自分に何かあった場合、全て君が真相を知るよう手配済みだと言ったらしい。鈴原はそれを恐れていたみたいだが、三回目でそれが片岡 陽菜紀のハッタリであると気づいたようです」

ハッタリ………?

「いいえ、陽菜紀は私に教えてくれました。それは本当のことです」私が幼稚園時代、画用紙に四角と星の絵を描いた画用紙を手渡されていたことを曽田刑事さんに話すと、彼は驚いたように目を瞠っていた。

「だけどしばらく陽菜紀のメッセージに気づかなくて……それに、提出しなかったこと謝ります」と頭を下げると

「いえ、あなたは単に幼稚園児の落書きだと思っていたわけだから、それは仕方のないことですよ」と曽田刑事さんはそっけなく言ってペン先でこめかみを掻いた。「我々の追及不足でもあったわけなので」

「それから荒井 沙耶香さんのタバコの吸い殻があった件ですが、あれは鈴原が仕込んだものではないようです。その件に関してはヤツは否定しています。
つまり荒井 沙耶香さんは片岡さんの自宅に訪れていたってわけですが……事件当日に荒井さんが片岡さんのマンションに訪れた形跡は残っていませんでした」

「じゃぁ何故……」

沙耶ちゃんの吸い殻が陽菜紀のマンションに落ちていたのだろう。