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「……り、灯理」

名前を呼ばれてうっすら目を開けると、そこは白いシーツを広げたようなまっさらな視界だった。白色の眩しさに思わず目をきゅっと閉じて、でも再び恐る恐る開けると目の前にいて私を覗きこんでいたのは―――

「灯理…」

私を呼んでいたのは……


「陽菜紀!」


私は目の前にいる人物の名を呼んだ。陽菜紀の明るい茶色の髪はゆるやかに巻いてあって、オフショルダーになっている赤いワンピース姿。陽菜紀が生前、お気に入りだった一着だ。私もこの服が好きだった。何故なら陽菜紀にとても良く似合っていたから。

陽菜紀は酷く心配そうに私を覗きこんでいて、横たわっていたのであろう私が半身を起こし、陽菜紀に抱き付いた。

「陽菜紀……やっと会えた…
もう離れないで。ずっと一緒よ」

陽菜紀は私の言葉に最初は小さく頷いていたものの、すぐに悲しそうにちょっと微笑んで、

「いいえ、一緒には居られない」と声を震わせた。

「どうして……?だって私はこうやって陽菜紀と会ってるんだよ。喋ってるんだよ。
鏡越しじゃなく」

「うん。凄く……凄く嬉しいことだけど……でも私は―――
一緒に居ることを望んでいない」

どうして――――……

と言う言葉は口に出なかった。陽菜紀は形の良いアーモンド形の瞳からうっすら涙をこぼし

「私と灯理が居る場所は違うの。本当は一緒に居たいけど」

「…じゃぁ!私がそっちに行く」

「でもだめなの!」

陽菜紀が叫び声のような声をあげた。陽菜紀が私に声を荒げることは初めてのことだった。小さな喧嘩…と言うか言い合いはしたことがあるけれど、こんな風に怒鳴られるのははじめてだ。

「どうして……どうしてよ!陽菜紀は私を求めてくれた!私たちずっと一緒に居る方法を一人で考えてくれた!なのに何故…!」



「生きていて欲しいから」