寂しいのは鈴原さんだけじゃない。私も同じ。

寂しいひとなのだ。本当の愛がなんたるか、27年間生きてきても分からなかったことなのに、死の瞬間にようやく理解する、なんて。

やがて私の手や脚にも力が入らなくなって、ソファからずるりと崩れ落ちる。

震える手で私は項垂れる鈴原さんの向こう側の鏡を求めるよう手を伸ばし

「ひ………な…き……」
と、会いたくて会いたくて

願っても、もう手に届かない人の名前を呼んだ。

すると陽菜紀の姿が鏡の中に浮かび上がった。燃え盛る部屋の赤い色を浮かべたその一面に。さっきは見えなかったのに―――

『灯理!』陽菜紀は鏡に両手をついて確かに私の名前を叫んでいる。


『灯理』
「灯理………」


陽菜紀と、涙が混じった声で弱々しく呟く鈴原さんが私を呼ぶ声が重なった。

私は最後の力を振り絞って、脱力した鈴原さんを思いっきり突き飛ばすと、鈴原さんはあっけなくよろけて勢いよく鏡に背をぶつけた。鈴原さんの背がぶつかったからか、鏡が割れてその割れた隙間から白い腕が伸びてくる。

陽菜紀―――もう四角じゃないよ。もうあなたは

自由よ。


「鈴原くん、私の灯理を傷つけるなんて

許さない」


鏡からぬっと半身を抜け出させ、陽菜紀のその白い腕が鈴原を背後から包む。

鈴原さんが息を呑み、「ぅわぁあああああああ!!」と叫び声を挙げた。