すぐさま破片を取り返そうと私が勢いよく手を伸ばすと、それを抑え込もうと鈴原さんが手を伸ばした。
そのときだった。
鈍い音がして私のお腹の辺りに電撃のようなものが走って、私は目を開いた。その瞬間、私も鈴原さんも時間が止まったように動きを止め互いの顔を見つめながら目を開いた。
「………あ……」
最初に声を出したのは私だった。“その場所”から生暖かいものが溢れてくるのが分かった。鏡を自ら割ったときよりも、その破片を手で強く握っていたときよりも、明らかにたくさんの量が流れ出てくる感覚だけが分かる。
痛みは感じない。衝撃で麻痺してしまっているのだろうか。これがショック状態と言うのだろうか。
鏡の破片を眺めて、その場所を押さえた際についた血が手のひらいっぱいに広がっているのを見て息をついた。呼吸すら難しい。肺が悲鳴を挙げているかのように苦しくて起き上がることすらままならない。これはきっと燃え広がった炎のせいだろう。
「…………灯理……」鈴原さんは、光を失った冷ややかな視線で私を見下ろしていた。
「鈴原………さ……」私は震える手を懸命に伸ばした。
「君をこんなカタチで逝かせるとは予定外だ」
鈴原さんの暗い闇が渦巻いた眼孔が私を捉えている。その眼から一粒の涙が零れ落ちた。
「大丈夫……すぐ楽にしてあげる。
俺もすぐ逝くから。もう離れ離れじゃないよ。
俺たちは永遠に一緒なんだ―――」
鈴原さんは涙を零しながら、ゆっくりと私の首元に手を這わせた。
その骨ばった両手が私の首をゆっくりと絞めあげる。
苦しい……
それはお腹に刺さったガラスの怪我からなのだろうか、それとも気道を塞がれ、息ができないからだろうか。
ただ、
苦しい――――



