■□ 死 角 □■


そこから、レシートを提示して……すぐに店側のレシート控えと照らし合わせ、確認が取れた後、私は酷くたどたどしく昨日の出来事を話した。

コーヒーショップを出た後、陽菜紀のマンションに向かったこと、鈴原さんと鉢合わせたこと、二人で陽菜紀が不在なことを不思議に思ったこと、それから家に帰ったこと。
刑事さんはそれを細やかに手帳に書き記し、私の話に頷いた。

「あなたが会った男と言うのはこの人ですか?」

若い方の…久保田刑事さんが何かの写真を一枚テーブルに滑らせてきて、私はそれをのろのろと覗きこんだ。

画像は荒く、細やかな所までは分からなかったが、それは確かに見慣れた陽菜紀のマンションロビーのキーパッドの前でキーを打ち込む鈴原さんの姿だった。

「ええ、間違いないです」

何とか頷くと、久保田刑事さんはまたもすぐに別の写真を取り出し「これはあのマンションの防犯カメラの画像です。さっきの写真は19:27。そしてあなたが来たのが19:30」今度の写真にはキーパッドに並ぶ私の姿も映しだされていた。

「間違い……ありません。これは私と鈴原さんです」
「その鈴原と言う男は陽菜紀さんとどういった関係かご存じですか」
と、今度は無精ひげの曽田……刑事さんが聞いてきて
「さぁ、私も良く知りません。彼とは初対面です」と答えると、間を置かずすぐに
「彼の連絡先とかご存じですか?」と言われ、曽田刑事さんの鋭い視線が私の全身を刺したように思えて思わず身を縮めた。私は鈴原さんから貰った名刺の存在を思い出し

「個人のケータイ番号とか知りませんが、会社なら……」と言って再び財布に仕舞い入れた名刺を取り出す。
「失礼」と、すかさず久保田刑事さんがテーブルに置かれた名刺にスマホをかざし写真を撮っている。曽田刑事さんの方は昔ながらのやり方なのだろうか、手帳に素早くペンを走らせた。

ここに来て少しだけ事態が理解できた。

「あの……私と鈴原さんは疑われてるって言うことですか……?」

認めたくなかったが、刑事さん二人に鋭く質問されると、もう自分が“事件”の部外者ではなく、当事者の一人だと言うことを認めざるをえない。

「まだ容疑は掛かっていません。今は関係者全員に話を聞いているだけですので」

と、久保田刑事さんは苦笑を浮かべ、変わりに曽田刑事さんの方はあまり有力な情報を得られなかったと言う感じで、あまり私の供述に興味が無さそう。ペン先でこめかみを掻いている。

だがしかし

「片岡 陽菜紀さんとはどういったお知り合いで?」
と予期せぬタイミングで、鋭い質問が飛んできてまたも私は身を縮めた。