「誤算とは言え、沙耶香さんは君に気持ちを伝えるつもりはなさそうだったから、そのまま様子見をしていた。そうしたら、鳥谷 麻美があの事件を起こした。
厚木 優子が君を襲ったのも俺の誤算だ。まさか君を殺そうとしていたなんてね」

「今まで周到に“L事件”を起こしていたのに、今回は誤算がいっぱいね」とちょっと皮肉ると、鈴原さんは苦笑を浮かべた。

「三人の“L事件”に接点はない。君に良く似た容姿だ、と言うこと以外。
ただし今回に関しては君の……いや、女王陽菜紀の周りに居た人間たちの裏の顔を見破れなかった、と言えばいいのかな…
陽菜紀は良い意味でも悪い意味でも様々な人間に色んな感情を植え付けた。陽菜紀は多くを与えてくれたが、同時にたくさんのものも奪っていった。その先にあったものが

―――嫉妬・欲望・羨望

そして灯理さん―――……君だ」

私―――……?

「陽菜紀がどんな計画を立てていたのか語るときがきたようだ」

鈴原さんが切り出し、私はごくりと喉を鳴らした。それはさっきから頻繁に彼の口から語られてきた大きな謎だ。

陽菜紀は一体何を企んでいたのだろうか。

鈴原さんは完全に空になったボトルを眺めて、もう一本同じワインを取り出した。前回と同じようにコルクを引き抜き、ゆっくりとグラスにワインを注いだ。その深いレッドがまるで血の色のように見えた。

陽菜紀は―――その“計画”を企てて殺されたようなものだ。自分で自分の首を絞めた、と言えばそれでお終いだが、逆に言えばその計画さえ立てていなければ殺されることはなかったのだろうか。

今更、考えたって仕方のないことだ。鈴原さんが入れてくれたワインに口を付けながらぼんやりとそんなことを思っていると


「沙耶香さんと同様、陽菜紀も

―――君のことを愛していた」

鈴原さんが、陽菜紀が近くに居る筈なんてないのに、そこにまるで彼女が存在しているかのように忌々しそうにして宙を睨んでいる。


陽菜紀も――――………?


私は驚きに目をまばたいた。