信じられない…

信じない!


「嘘よ!あなたは私を混乱させようとそんな酷い出まかせを!沙耶ちゃんを侮辱しないで!」私は叫んで、とうとう乱暴に鈴原さんの手を払った。その場で思わず立ち上がったが、それと同時に素早く鈴原さんも立ち上がり

「落ち着きなよ、ね。俺は君を混乱させようとしていない。君が事実に混乱しているだけだよ」

まるで小学生の子供を諭す親のような口調で言って私の両肩に手を置き私を覗き込んでくる。その眼に少しばかり同情の色が浮かんでいた気がする。

「沙耶香さんも不憫だな。あんなに君のことを愛していたのに」

何を今更……沙耶ちゃんを殺そうとしていたくせに。と心の中で悪態をつく。実際口に出したかったけれど、出てこなかった。鈴原さんが言った通り、私は混乱しているのだ。鈴原さんにやんわりと肩を押され私は力なくソファに逆戻り。

「俺は……君への想いを“殺人”と言う形で埋めることにしたが、沙耶香さんは仕事で埋めたようだ。美人で仕事も出来るのに恋人も作らず、君への気持ちから逃げるようにスウェーデン行きを決めた。
本来なら君と再会することなく彼女は今頃スウェーデン行きの準備を進めていたろうに、陽菜紀の不幸と言う出来事が二人を再び結び付けた。
まあ言うまでもなく俺が結び付けちまったんだけど……沙耶香さんの気持ちを知らなかったから、完全な誤算だった」

「いつ……いつ、知ったの?沙耶ちゃんの気持ちに」私は虚ろな目を鈴原さんに向けた。それを知ったところでどうにもならないのに、沙耶ちゃんの意識が今すぐに戻るわけもないのに、聞かずにはいられなかった。

「告別式のとき。君たちは手を繋いでいたよね」

ええ、確かに。でもあれは沙耶ちゃんが陽菜紀の死を本当に悲しんでくれて、酷く頼りなげだったから。私としては支えるつもりだったのだ。

「あの一瞬で見破った。いや…一瞬あれば充分だった。彼女の手から君の指先に
確かに愛を伝えていたんだよ」

私は―――知らなかった……

けれど、知らなかったとは言え沙耶ちゃんに無神経なことたくさん言っちゃった。今更後悔しても遅いのに、その後悔で胸が押しつぶされそうだった。