邪魔者を一斉排除―――随分、物騒な言葉だ。陽菜紀にとって一体誰が邪魔だったのか。
「陽菜紀はハートの女王だ。ほら、君だって知ってるだろう?不思議の国のワンダーランドを牛耳ってる女王を」
「ああ……気に入らなかった者の首を跳ねると言う……あの?」
確か……主人公のアリスが不思議なうさぎを追いかけて迷い着いた先がワンダーランドだった気がする。
しかし、大切な親友をハートの女王扱いされたことにちょっとムっときた。でも全否定はできない。ある意味陽菜紀は自分にとても素直だったから。敵も多かっただろう。
「それより…さっきから……陽菜紀は何を計画していた、と言うの」とせっかちに聞くと
鈴原さんはほぼ空になったワインのボトルを持ち上げ、
「その前に陽菜紀を殺したときのトリック知りたくない?」と逆に聞かれ、私はぎこちなく頷いた。確かに……覚えている範囲で、陽菜紀の最後の投稿は19:16。内容は……確かワインが無くなったことをコメントしていたような……
そのときまで生きていた、となるとその約15分後に私はエントランスホールで鈴原さんと鉢合わせたわけで、曽田刑事さんの話に寄るとその15分で誰かが陽菜紀の部屋に訪ねた形跡はなかったようだ。鈴原さんがどうやって陽菜紀を殺したのかは謎のままだ。
「警察は陽菜紀の死亡推定時刻を19:30~21:30の間に絞った。けれど陽菜紀を実際に殺したのはその1時間以上前だ」
え――――……?
「だって……陽菜紀がSNSに投稿…」と言いかけてはっとした。
「さすが勘がいいね。そうだよ、最後の二件を投稿したのは、俺だよ。
投稿内容は何だって良かった。あの女はSNS依存症で、何もかも写真に撮り収める癖があったからね、もっともらしい一枚を見つけて適当に内容を書いた。
まぁ18:00の料理の投稿のトリックは流石に疲れたけれどね、だってあいつが投稿した料理を再現する必要があるだろ?あとは殺した後、そのときの服装を着せるのも一苦労だったが」
「……だから……だから陽菜紀のスマホを持ち去る必要があったのね」
「それもあるけれど、陽菜紀亡き後、死んだ筈の女からメールが来たら……君はさぞ驚き怯えるだろうと思ってたからね」
鈴原さんはスーツの内ポケットから陽菜紀のスマホを取り出し、悪びれた様子もなくふらふらと横に振る。
「吊り橋効果、ね。
あなたの所にも送られてきたら、私たちは自然互いを頼るようになる。
テレビ局に私の名前で優ちゃんと陽菜紀のご主人の不倫現場を送りつけたのもあなたなんでしょう。
私があなたを頼るように、そう仕向けた」
私が推測した内容を述べると、鈴原さんはちょっと驚いたように目を開き、だけどすぐうっすら微笑を浮かべた。
「そうだよ、流石だね。そこまで分かったなんて」
この推測は陽菜紀の助言ではない。曽田刑事さんの―――何気ない一言だった。



