「けれどあなたは陽菜紀と付き合ったじゃない」とため息をつきながら言うと
「陽菜紀とは付き合ってはいない。灯理さんと付き合いたいんだろう?だったら協力してあげる、って言われて、随分魅力的な提案だったからね、それでよく一緒にいた。
灯理さんが何を好きとか、当時どんな遊びをしていたとか色々教えてもらってた。それが誰かの目に留まって勘違いされたんだろう」
そう言う―――こと……
陽菜紀は私の好きな人を奪ったわけじゃない。私と山田くんをくっつけようとしてくれていたのだ。二十年弱掛かってようやくその事実を知るなんて―――しかも本人からじゃないなんて。
皮肉なものね。
私も鈴原さんに倣って額を手で覆った。
「でも皮肉ね。あの夜…天体観測と……そしてさっき空を見上げながら話した内容で、私はあなたが陽菜紀を殺した―――いいえ、一連の“L事件”があなたの犯行だと気づいた」
私の言葉に鈴原さんは少しだけため息を吐いたけれど、次の瞬間どこか楽し気に
「どうして気づいた?」と聞いてきた。
「今日ディナーを一緒にして、その帰り道……あなた空に浮かぶ金星を『明けの明星』と言ったわよね」
鈴原さんは特に考えず「うん」とすぐに返答。
「あれは“明けの明星”じゃないわ。あの時間帯、
“宵の明星”と言うの。
私が小学校五年生の林間学校で間違った情報をあなたに伝えて、それであなたは勘違いしたまま“明けの明星”だと思いこんでた。
“明けの明星”の別名は“ルシファー”頭文字はL。でも宵の明星に別名はない。あっても古代ギリシャのヘスペロス(Hesperos)と言うのが挙げられるけれど、それかしら文字がLに当てはまらない」
私の説明に鈴原さんは大きく目を開き、口を少し開けると二三頷いた。
「なるほど………」
それ以上言葉が浮かばないのか鈴原さんはしきりにまばたきを繰り返し、彼が次の言葉を言わないうちに私は自分の言葉を被せた。
「何故……陽菜紀を含む四人を殺したの。前の三人は私に似ているから、と言うのは理由にならないわ。だったら私も殺したいの?」
そう聞くと
「違う!」
と、一段と大きな声で鈴原さんは否定した。



