認めたくなかった。

それにまだまだ私も知らない部分がある。けれど母の言葉が、私の推論を真実へと結論付けたのだ。母はその決定打を下したことに恐らく気づいていない。

そう思うと後は早かった。はっとなって弾かれたように立ち上がりバッグとスマホを掴む。

沙耶ちゃんが危ないかもしれない。少しでも悩んでいる時間なんてないのだ。

アパートを飛び出そうとして、少し考えを巡らせた。キッチンに向かうと流しの下に掛かっている包丁を一本取り出した。運良く数日前に砥いだばかりだ。包丁を掲げると鈍い銀色の光が輝いた。それを新聞紙に包み、バッグに仕舞い入れる。私自身が間違いを起こそうと気はないけれど、万が一の防衛策だ。

そして私は慌てて曽田刑事さんに電話をした。この時間帯だと言うのに刑事さんは勤務中みたいですぐに電話に出てくれた。

『良かった、中瀬さん。ちょうどこちらか連絡しようと思ってたんですよ。ちょっと聞きたいことがありまして』と曽田刑事さんのちょっと緊張を帯びた声を聞き流し

「それ、また明日でもよろしいでしょうか。それより私、陽菜紀を殺した犯人分かったかもしれません。今からその人に会います」
早口に伝えると

『え!中瀬さん!それはどうゆう……!』と曽田刑事さんは勢い込んだが、私は彼の言葉を途中で遮って半ば強引に通話を切った。

そう、今から犯人に会う。

小さく決意してアパートを出ようとしたとき、見知らぬ番号から電話が掛かってきた。再びびくりと肩が揺れる。このまま取らずにやり過ごすことも考えたが、呼び出し音はなかなか止まない。

覚悟を決めて電話に出ると、予想していない相手だった。

『仙都総合病院ですが……中瀬 灯理さんのお電話でお間違いありませんでしょうか』

その病院は沙耶ちゃんが入院している病院名だった。沙耶ちゃんに何かあったのかと思ったが違うようだ。容体は安定している、とのこと。では何故私の所に掛かってきたのだろうか。普通緊急連絡先は家族にしてある筈。

『実は―――……』と電話の相手が困ったように切り出し、私はその用件に耳を傾けた。

話は数分で終わった。結局「今からそちらに窺おうとしていたところです」と言い置いて今度こそ私は沙耶ちゃんが入院している病院に向かった。