どれぐらいそうしていただろう。数分……或は数十分、もしかして一時間経っていたかもしれない。
帰ったときにそのまま床に放り投げたままになっていたバッグの中でスマホが震える音が聞こえた。のろのろとスマホを取り出し、けれど何故だか画面を見るのが怖かった。
けれど着信は母からで、電話に出ると毎回決まって交わす挨拶のような近況報告を聞き、それから
『あんた、こないだ陽菜紀ちゃんちに行ったみたいね。敦子さんのご主人から聞いたわ』と切り出され、敦子さんのご主人と言うのは陽菜紀のお父さんのことだ。確かに陽菜紀のおじちゃんとは少し会話をした。
『すごく喜んでくれてたわよ。今じゃあそこを訪ねてくる人、あんたぐらいだって言うから……悲しいものよね』と母は小さく吐息をつく。
『沙耶香ちゃんはあんなことになっちゃったし、優子ちゃんと麻美ちゃんは逮捕されちゃったでしょう?こっちでは大騒ぎよ』と母は迷惑そうにしていた。確かに小さな町で立て続けに逮捕者が二人も、そして意識不明の重体が一人と言う状況は異常だ。
『事件の後、毎日のようにテレビ局だかが押し寄せてきてね。最近は落ち着いたけど』と母の愚痴は止まらない。
「分かった、分かったから」と私は母の話を遮り
「それよりも私の小学校の卒業アルバムってそっちにある?」とせっかちに聞くと、母は怪訝そうにして
『何でそんなもの。全部こっちにあるけれど、どうしたの』
「調べてほしいことがあるの。あの……こんなことになっちゃったからちょっとみんなに会って同窓会って言い方は不謹慎だけど、色々説明したいの」と何とか言い訳をすると『ちょっと待ってて』と言い、電話は保留になった。我ながら苦しい言い訳だと思ったが、母はすんなり調べてくれて、私が聞きたかったことも教えてくれた。
通話を切った後、私はスマホを握りしめたまま、だらりと腕を下ろした。脱力した腕でかろうじて指先だけに力が入ってはいるようでスマホが手から落下することは免れた。
まだ半分は憶測の域だけれど。でも
これで―――
これでピースが揃った。
シンデレラの魔法が解けた瞬間―――
そう感じた。



