「ホシが持ち去ったと言うことでしょうか」と久保田が意見を仰ぎ、俺はちょうど食器棚の扉を開いていたところだがそれを閉じ、目を細めた。
「それは違うだろう。片岡 陽菜紀の致命傷は女神のオブジェによる殴打だ。問題のアプロディーテと殴打痕が一致した。その鈍器である像を処分していかなったのに、何故ワインを持ち去る必要がある」と久保田に説明をして、「確かに、変ですよね」と久保田も同意した。
「ワインボトル……もしかして最初からそんなもの無かったのかもしれない」
「え?」と久保田が声をあげ
「久保田、お前はSNSやるか?」と聞くと「俺はやりませんけれどツレはやってますよ」と怪訝そうな答えが返ってきた。「それが何か」と言いたげだ。
「そいつは毎日投稿するタイプか」とさらに突っ込んで聞くと
「どうだったかな……いや、はっきり分かりませんが」と久保田は益々怪訝そう。
「人気の投稿者はほぼ毎日のように挙げるらしいな。でも早々ネタなんてねぇだろ」
「まぁ確かに」
「撮り溜めだよ。ネタがないとき用の為に撮った可能性がある。片岡 陽菜紀の写真もきっとそうだろう」
俺がきっぱり言い切ると
「いや……曽田さんの仮説は納得できますけれど、でもワインが切れたって言うネタを撮り溜めまでして残しておきますかね」
「使えそうなネタは何でも撮っておくだろ。片岡 陽菜紀のスマホが持ち去られた以上、それを確認しようがないがな。でも逆を言えばその投稿がその日、その時間に撮られたものじゃなかったら?
もっと言うとその投稿がその日その時間に“本人”によってされたものでなければ?」
俺が久保田に言うと久保田が目を開いた。
「ホシが投稿したと考えれば、片岡 陽菜紀はもっと前に殺されていた可能性もありますね」
「ああ、だとしたら全員のアリバイが崩れる」



