中瀬 灯理のアパートを出た所で、またもせっかちに久保田から電話があり、
『イト(井東)さん怒ってますよ。早く帰ってきてください』と言われ俺はがしがしと頭を掻いた。こりゃ帰ったら説教が待ってるに違いない。しかもイトさんと久保田のダブル説教だ。気が重い。
と思ったところで、ふと足を止めた。
さっき中瀬 灯理と話した会話が蘇る。
シンデレラの――――靴……?
それに鏡。
「おい久保田。ちょっと出てきて付き合え」と短く言うと『はぁ?今度はどこですか』と相棒は不服声。
そこから三十分後、俺と久保田は片岡 陽菜紀のマンションで落ち合った。もう現場検証は終わっているが、片岡 伸一は帰ってないらしい。まぁ妻が殺されたと言う場所で普通に生活できるか、と問われれば無理な話だ。伸一はここ数週間ウィークリーマンションに住んでいる、とのことだ。
管理人に言って鍵を借り、事件当夜から何度も足を運んだ場所に再度足を踏み入れる。
久保田は片岡 陽菜紀のSNSをチェックしていて、片岡 陽菜紀の最後の投稿は19:16。彼女はほとんど無くなったワインを片手に頬を膨らませていた。
“親友が来るって言うのにワイン切らしそ~。今日は飲むって決めたのに!ヽ(`Д´)ノプンプンあ、でも配達員が届けてくれるって~♥スズ、いつもありがと♥”と文章が書いてあって
「この“スズ”ってのは鈴原のことですよね。片岡 伸一もワインがどうのこうのとか言っていたと証言してますし。でも単なる配達要員だったんですかね、鈴原は」と久保田が顔をしかめる。俺はそんな久保田からスマホを奪い、片岡 陽菜紀が自撮りした場所と角度を確認した。僅かに映っている背景から、キッチンカウンターで撮られたことは分かった。
「この位置だな」と俺はその場に立って自撮りをするポーズ。
「曽田さん、それキモいっす」と久保田は先輩だと言う俺に容赦がない。この際気持ち悪いのどうのこうはいい。問題は片岡 陽菜紀が手にしているワインだ。完全な空ではなかった。恐らくグラス半分程はまだいける筈。
「ワインボトルだ」俺は久保田にスマホを押し付けると、システムキッチンの棚を片っ端から開けた。突然の謎の行動に久保田が「はぁ?」と顔をしかめる。
「最後の投稿、事件当夜の19:16。そこから片岡 伸一が“出張”から帰ってきて陽菜紀を発見するまでの時間は恐らく13時間程度。無くなりかけのワインボトルが捨てられる筈はない。それがある筈だ」
「そうですね。確かゴミ収集も翌日はなかったようです。伸一が捨てる筈がない」
そう言ってあちこち……それこそキッチンだけではなくリビングのサイドボードの中等を探し回ったがワインのボトルはどこにも見つからなかった。



