「信じて―――くれるんですか……」と目をまばたく。
信じる、と言うか俺は中瀬 灯理がまともだと思っただけで。
「相談して……良かった…」と中瀬 灯理はほぅっと息をつく。
「誰にも話してないんですか?」と聞くと
「こんなこと話してもまともに取り合ってくれないと思って……頭がおかしくなったんじゃないかと思われるのがオチだったので、誰にも相談できず…」
「いや、こんなことが立て続けに起こったんですから、誰でも多少なりとも精神的に参ってしまいますよ。俺だって離婚の際……」と言いかけて口を噤んだ。
「いや…まぁ十年も前の話ですがね」と慌てて言うと、中瀬 灯理はちょっと目をまばたいた後、小さく笑った。
「刑事さんでも精神的に参っちゃうときってあるんですね」
俺を何だと思ってるんだ。とちょっと思ったがそれまで妙に神妙だったから、この空気が心地良い。
そう、心地良いのだ。中瀬 灯理と居ると。
中瀬 灯理は意図しているわけではないだろうが、天性で男に「守ってあげたい」と思わせる何かが備わっている。それでいて、時々驚く程大人の女を思わせる色香を漂わせている。頭もいいがその反面若干流されやすい所があると思いきや、意外と芯がしっかりしているところもある。
それは不思議な魅力だった。
「事件が解決したら―――」俺は切り出した。
中瀬 灯理がゆっくりと顔を上げる。
「事件が終わったら、一度飲みに行きませんか」
俺が切り出すと、中瀬 灯理は最初戸惑ったように視線を泳がせていたものの
「ええ。こないだ連れて行ってくれたお店、確かに焼き鳥おいしかったですしね」とすぐに笑顔を浮かべる。
「いえ。あの店じゃなく、今度はちゃんとした………別の店に」と返すと中瀬 灯理は目をまばたいた。「え………?」と数秒遅れで返事がきて、彼女が何か言う前に俺は早口で
「そのときはちゃんとしたスーツ着てきます。ちゃんとしたの、あるんですよ。俺でも。まぁ一張羅ですが」
「はあ」と中瀬 灯理は俺の勢いについてこられないようにしきりに目をまばたく。
「髭も剃ってきます。ご希望なら花束持って行きます。フランス料理は俺に不釣合いだけど、でもやっぱりムードが大事なんで」と一気に言った後、体中の血液が顔に集まってきたかのように顔が熱くなった。
「あの、それって……私を……で、デートに誘っていらっしゃるのですか」
と、中瀬 灯理はようやく理解したようで大きく目を瞠り
「……そうです。デートに誘っています」
俺はあっさりと白状した。



