残り四十五分だ。桜田門までの道のりを考えると、猶予がない。

大体にして、ここまで来て俺は何をしようとしているのか、自分自身でもよく分からなかった。

ただ、本能的に―――中瀬 灯理の顔を見たい、と思ったことだけが
事実だ。

だが見たところでどうする。中瀬 灯理は俺のことを刑事としては頼ってはくれているだろうが、人間としては恐らく嫌っているだろう。

こんなこっそり盗み見る真似なんかして、俺はストーカーか。益々嫌われることになる。と自分に呆れて、いよいよ帰ろうかと思ったときだった。

中瀬 灯理の部屋の扉がこちら側に開いて、中から

鈴原 則都
が出てきたのを見て、俺は息を呑んだ。

「じゃぁ灯理さん、ごちそうさまでした。しっかり戸締りしてください」
「ええ、ありがとうございます。おやすみなさい」と一通りの挨拶が終わり、鈴原がこちらを向く。俺は慌てて電柱の影に身を潜め、暗かったのもあり鈴原は俺の存在に気づかず駅の方へと歩いていった。それをきっちり見届けて、中瀬 灯理は扉を閉めた。

中瀬 灯理の部屋から出てくる鈴原を見て、心臓が壊れそうな程大きな音を立てていた。


どうゆうことだ―――……二人は付き合っているのだろうか。


そう言えば以前、荒井 沙耶香が病院に搬送された際も、鈴原は中瀬 灯理と一緒だった。
鈴原は殺された片岡 陽菜紀と交際、もしくは片岡 陽菜紀に想いを抱いているように我々は思っていたが、それは違うのか―――

あれこれ考えていたが、考えるより早く足が動いていた。気付いたら中瀬 灯理の部屋の前のこげ茶の扉を睨むように立っていた。ほとんど何も考えずインターホンを押す。

「……はい、どちら様ですか…」と中瀬 灯理はすぐに扉越しに対応してくれた。恐らくドアスコープでこちらを覗いていたに違いない。「曽田です」と名乗るとほぼ同時に扉が開き

「刑事さん……」と中瀬 灯理がびっくりしたように目を開いて現れた。