鈴原さんは少し恥ずかしそうに顔を赤く染め、

「あー!もぅ!」と言って髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。びっくりして再び目を開いていると
「かっこつけたいんです、俺。灯理さんの前では、かっこいい王子になりたいんですけれど、でも所詮は庶民だし……かっこつかないって言うか…もう言ってることぐちゃぐちゃ」

鈴原さんは酷くバツが悪そうにひたすらに髪をくしゃくしゃにしていて、きっと照れ隠しなのだろう。

「素敵ですよ」

私は鈴原さんの手に自分の手を重ねて、

「ありがとうございます。とても嬉しいです」


と小さく言うと、彼は再び恥ずかしそうに俯き

「じゃぁ今度……食事にでも行きませんか」と誘ってくれた。

「ええ、もちろんです」

夢にまで見た。鈴原さんとのデート。今まで私たちの関係は陽菜紀の不幸を通して、また不可解な事件や事故を通して繋がっている、あまりいいものではなかった。けれどこれを一つのキッカケとして前向きに捉えるのも悪くない。

鈴原さんはその後何をすると言うわけでもなく、その後は雑談などを交えてビールを一本空にして、帰っていった。玄関口まで送っていき、

「じゃぁまた。連絡します」とちょっと嬉しそうに頭を下げる鈴原さん。私もそれに微笑み返した。鈴原さんが帰っていったあと、リビングに戻ろうとしたところでふと立ち止まった。

洗面所の鏡に貼りつけたガムテープ。
何故そんなことをするのか、と鈴原さんに突っ込まれずに良かった。もしかして気づいていないのかもしれない。

今度鈴原さんをここにお招きする際、やっぱり剥がしておいた方がいいわね。でも

しばらくは

到底剥がせそうにない。


陽菜紀が
怖い。