鈴原さんは私の言葉に目を開いて、私の肩を撫でていた手を止めた。

「灯理さ―――……」鈴原さんが何か言い出す前に
「……ごめんなさ……今のは気にしないでください……鈴原さんが私に親切にしてくるのは、陽菜紀の友人だからであって…」
勘違いも甚だしい。と言葉は呑み込まれた。

鈴原さんは私の肩を撫でていた手で私を引き寄せると、その胸へと私を抱いた。

突如の出来事に驚いて私は息をすることすら忘れてしまった。びっくりし過ぎて呼吸さえ止まり、固まったまま鈴原さんをおずおずと見ると、彼の程よく日焼けしたうなじに黒い髪が掛かっていて、その襟足に目がいった。

すぐ近く―――……私が手を伸ばさなくても、その存在は確かにある。その存在が手の中にある。

「俺があなたが、ただ―――陽菜紀の友人だからここまでしてる、と?
違います。俺は、俺の意思で、

あなたを守りたいと―――……そう思ったから」

鈴原さんは私を少しだけ離すと、顔と顔を近づけてすぐ至近距離でそう囁いた。

鈴原さんの細くてきれいな指が私の顎に添えられる。それは決して強引なものではなく、繊細な何かを慎重に扱っているような、そんな仕草に思えた。


「灯理さん。俺はあなたが

―――好きです」


鈴原さんの顔が近づいてきて、彼の睫が私の瞼に触れたその瞬間、私はそっと目を閉じ、刹那とも呼べる瞬間、私と鈴原の唇は
重なっていた。

はじめての口づけ。

それは私の初恋よりも、沙耶ちゃんの言った秘密の味よりもっともっと甘い
とろけるような、それでいてどこか甘い痺れをきたすものだった。