「ち、散らかってますけど」と言い鈴原さんを部屋へ促す。鈴原さんは「いえ、そんなことは」と言いながら恐縮して入ってくる。どこかよそよそしい雰囲気が流れていたが、逆に初々しいとも取れる。この妙な空気がどこかくすぐったくも心地良くもあった。
気付いたら私、自分の部屋に男の人を入れるのは、はじめてのことだった。
心地良い緊張の中、
「あ…、何がいいですか?…やっぱりコーヒー……あ、でもうちコーヒーメーカー無いのでインスタントですが…それともアルコール……ビールぐらいならありますけれど。お好きでしたよね」
と私の口は今日に限ってよく動く。それも酷くぎこちなく。
「……じゃぁビールで」と鈴原さんが恥ずかしそうに軽く笑って、私は彼を折りたたみのテーブルの下に座るよう促し、彼の前に缶ビール二本とグラスを二個置いた。
不思議だ。“あんなこと”があったにも関わらず、いえ……思いがけない事故があったからアルコールを入れて現実逃避したかったのかもしれない。
缶ビールのプルタブを開けながら
「何だか色々なことが一気にあって流石に疲れましたよね」と鈴原さんが切り出した。
「ええ……本当に。毎回毎回鈴原さんを巻きこんでしまい申し訳ないです」と小さく謝ると
「いえ、とんでもありません。毎回、灯理さんのピンチを救えたと思えば」と鈴原さんはまたぞろ恥ずかしそうに笑い頭の後ろに手をやる。
「恥ずかしながら……灯理さんと居ると、俺ヒーローって言うか……お姫様を守る王子になった気分で。頼られると嬉しいと言うか……
あ!すみません、不謹慎ですよね!」
鈴原さんは言った後に慌てて両手を振り、私が鈴原さんの言葉に目をまばたいていると
「……本当に……すみません」と再び、今度は静かに謝ってきた。その言葉に私の目から何故か涙が込み上げてきた。その粒は目がしらに溜まり、やがて大きな粒へとみるみる膨らんでいく。
黙り込んだ私を訝しく思ったのか鈴原さんが顔を上げ、私の涙を見るとぎょっとしたように目を瞠った。
「す、すみません!俺……本当に不謹慎でした」
鈴原さんは何を勘違いしたのか慌てて私のすぐ傍まで来て、おずおずと私の肩を撫でさする。
その手の温もりは……そのきれいな指は
この一瞬だけ、私に向けられたものだと思っていい?
陽菜紀
ごめん
「いいえ、鈴原さん。私……嬉しかったんです。そんな風に心配されたこと、守られたこと今までなかったから」
ごめんね、陽菜紀―――



