「危ない!!」

誰かの叫び声が聞こえて、それとほぼ同時に階段を駆け上る乱雑な足音。私の体は落下する直前、その誰かの腕で後ろから力強く抱き止められた。

一瞬、
何が起こったのか分からなかった。


けれど、私は―――
助かった………?

目の前に髪を振り乱し、まるで悪鬼のように形相を変えた……見る影もない優ちゃんの姿と―――……

「中瀬さん!大丈夫ですか!」と、抱き止められた反対側、優ちゃんの背後から曽田刑事さんの力強い腕が伸びてきて、私はその手に縋った。
久保田刑事さんも居て、緊張に顔を強張らせながらも尚も喚き叫ぶ優ちゃんを拘束している。
「午後7:56。厚木 優子。中瀬 灯理さんに対する殺人未遂及び傷害罪で現行犯逮捕する」と事務的に言った。優ちゃんは尚も
「離してよ!この女がいけないんだから!!」と叫んで抵抗していたが、久保田刑事さんに強引に連れて行かれた。

「大丈夫ですか」ともう一度聞かれて、曽田刑事さんに引き上げられながらも何とか後ろを振り返る。誰が私を助けてくれたのか。

そこには、緊張に顔を強張らせた

鈴原さん

がいて、私は目を開いた。


―――――
――

曽田刑事さんの話に寄ると、どうやら鈴原さんが受付で目撃したのは優ちゃんらしき女の人だったと言う。けれど一瞬だったし見間違いかと思って…何より麻美ちゃんが逮捕された、と言う…それだけでも緊急事態なので、それ以上気にせずここまで向かった。その後鈴原さんは会社のトラブルで電話をしに、曽田刑事さんと久保田刑事さんは沙耶ちゃんの病室移動に立ちあい、私は一人残ることになった。

沙耶ちゃんが移動するとき、鈴原さんは電話の最中だったらしいけれど、私が一人になったのを見てちょっと心配になったと言う。電話を中断させ、曽田刑事さんに「見間違いかもしれませんが」と前置き、優ちゃんを目撃したかもしれないことを伝えた。

曽田刑事さんたちもそのことが気になり、沙耶ちゃんの立ち合いを中断してここまで来てくれたようだ。

一方の優ちゃんも私をここ最近ずっと尾けていた、とのこと。もちろん私に危害を加えるつもりで。

しかし私は毎日鈴原さんと帰って隙がなかった、と言う。今日も会社からずっと尾けてきて、沙耶ちゃんの入院している病院へ行くことを知った優ちゃんは先回りして、この病院まで来ていた。そしてその後は私が一人になるときを狙っていたようだ。

むろん、この非常階段が防犯カメラの回って居ない「死角」であることはチェック済みだったと言う。