だからと言って沙耶ちゃんを怪我させていい理由にはならない。一歩間違えれば……いいえ、沙耶ちゃんは今も尚危険な状態なのだ。
久保田刑事さんは盛大にため息を吐き
「あなた方にここまで影響を及ぼす片岡 陽菜紀―――は何者ですかね。最近あなたの周りで連続して起きてる事件はみんな片岡 陽菜紀絡みだ」と漏らし、私は俯いた。
「久保田、口を慎め」と曽田刑事さんが久保田刑事さんを窘めたが、事実そうである。どこかで陽菜紀に繋がっているのだ。
そんなことを話し合っている最中、
TRRR
鈴原さんのスマホが鳴った。近くを通った女性看護師さんに「ここは病棟ですよ」と叱られ、鈴原さんは慌ててスマホを取り出すと謝った。
「ヤッベ。会社からだ。すみません、ちょっと席を外します。灯理さん、ここに居てください」と慌てて鈴原さんが病棟を出て行く。
そのちょっと後に別の看護師さんが「刑事さん、荒井さんのご家族の方はまだ到着されませんか?荒井さんの移動をしたいのですが」と聞かれ、久保田刑事さんが「今お母さんと妹さんがタクシーで向かっている最中みたいですが、道が混んでて到着が遅れるようです」と説明すると「緊急の患者さんがいらっしゃいます。移動の立ち合いしていただいても?」と、せっかちに言われ曽田刑事さんと久保田刑事さんが立ちあうことになった。仕方ないことだ。今も尚救急車の出入りが引っ切り無しに鳴っている。明らかにベッド不足だと思われた。
「あ、じゃぁ私ここに居ます。沙耶ちゃんのご家族の方が来たらご案内します。鈴原さんもすぐ戻ってくるだろうし」と申し出ると
「いいですか?すみません」と曽田刑事さんが申し訳なさそうに頭の後ろに手をやった。
ベッドに横たわったままの沙耶ちゃんが患者さん用のエレベーターで曽田刑事さんと久保田刑事さんと一般病棟に向かった。鈴原さんはまだ電話中なのか戻って来ない。
そう言えば鈴原さんは最近私に付きっきりだったから仕事が押しているのかもしれない。迷惑……かけちゃったな。とぼんやり思いながら廊下に置かれた長椅子に腰掛けていると、頭上に黒い影が落ちたのが分かった。
一瞬、鈴原さんが戻ってきたのかと思って顔を上げたが、私のその表情が見る見る強張っていくのが分かった。
優ちゃん―――………



