ご主人が浮気していたことは大々的に報道されていないが、小さな町だからどこからともなく噂は流れてくるのだろう。しかも浮気相手もこの町の住人だとしたら、尚更だ。

「私は本当は反対だったんだよ。あの伸一くんと言う男が気に入らなかった、と言っていいかな」
「……何故、ですか」と問いかけると

「何て言うか……ただの勘ですけれど。でも家内はそれは大喜びで。経済的にも見た目も申し分ないって。だけどそうゆう男は外に女作るって相場が決まってるんだわ。陽菜紀は箱入りだから、傷つくんじゃないかと心配してた」とおじちゃんはため息をついた。

おじちゃんの意見には賛同できる。ご主人のあの容姿と経済力ならモテるだろう。そしておじちゃんの勘は悪い意味で当たった。

「ここだけの話、私亡き後、陽菜紀にこの家をあいつに残すつもりでした。だから伸一くんのところに嫁ぐと言った際に、つい言ってしまったんですよ。この家はどうするつもりだ、って。そうしたらあいつは

『大丈夫、必ず戻ってくるから』と言っててね。結局、約束は守られなかったわけだけど」

おじちゃんが陽菜紀に残してあげたい、と言うだけこのおうちは立派だ。私の中瀬家とは比べ物にならないぐらい。昔はこのおうちがまるで絵本に出てくるお城のように思えて随分羨んだこともあった。さながらそこに住んでる陽菜紀はお姫様のようだった。
いや、今でもお姫様なのだ。おじちゃんにとっての、ただ一人の。

「こんな形で……」おじちゃんは声を震わせて陽菜紀の写真が入ったフォトスタンドの淵をそっと撫でた。「こんな形で戻ってこられても、嬉しくないんだよ」

おじちゃんの声は弱々しくリビングの高い天井に吸い取られた。