夜も20時を回っている。迷惑かと思い散々悩んだが、結局私は佐竹家のインターホンを押していた。出てきたのはおじちゃんで
「あ、灯理ちゃん。こんばんは」と、若干やつれた感じのおじちゃんは疲れていそうだったが何とか笑顔を取り繕って私を家へ招き入れてくれた。
「こんな時間にすみません。ちょっと……お二人の様子が心配だったので」と言うと
「ありがとねぇ。家内はあれっきり伏せってしまって。寝たきりだよ」とおじちゃんは疲労感を滲ませてため息をつく。
無理もない。あんなに仲が良かった娘が惨殺されるという不幸な出来事があったのだ。
私は広いリビングに通された。先ほど買ってきたケーキをお土産に渡すとおじちゃんは嬉しそうにして「早速いただこうかね」と言い、そこから見えるキッチンの向こう側で私にお茶を淹れてくれた。
リビングの立派なサイドボードの上に陽菜紀の写真が飾られている。その横に赤い薔薇の小さな花束が花瓶にさしてあった。私がその場所をじっと見つめていたからか、お茶の入った湯呑を持ってきてくれたおじちゃんがまた一層寂しそうに笑った。
「本当は遺灰も引き取りたかったんだけどねぇ、伸一くんが……手放したくないって……
陽菜紀を裏切っておきながらよくそんなことを言えたものだと思うがね、戸籍上では世帯主だからね……そう言われるとそれ以上何もできなくて」
おじちゃんの口ぶりから、ご主人が浮気していたことを知っているのだ、と悟った。



