「いや…そこのところハッキリしないんですがね。まぁうちは社内恋愛禁止ってわけじゃないし、若い男女はそれなりに何かあっても別におかしくないでしょう?ただ、仕事さえちゃんとしてくれれば問題ないですよ」と藤堂さんは慌てて言う。私が何を思っているのか勘違いしているのだろう。
「あの…昔っていつ頃かご存じですか?」と口早に聞くと
「さぁ、そこまでは」と、藤堂さんの答えは歯切れが悪い。本当に知らないのだろう。でも、鈴原さんは大学生までこの土地に来てないと言う。でも七年前だから逆算すると二十歳。単純に計算して大学に入学したのが十八だと考えればその二年間と言う間になるのだろうか。
これ以上は何を聞いても意味がないだろう。私は早々にお暇することに決めた。
「ところで……何故、警察でもない私にそんなこと教えてくれる気になったのですか」聞いておいてなんだが、ちょっと気になったのだ。
藤堂さんは今まで割と人懐っこい感じだったけれど、急に苦い顔つきをして
「何か…気味が悪いじゃないですか。昔とは言え従業員が殺される、と言う事件があって。今の所、警察はそれほどしつこくありませんが……」と言葉を濁した。
「縁起でもない、と」
「まぁそんなところですね。できれば避けて通りたいですけれど、最初の……鳥……」
「鳥谷?」
「そう、その鳥谷さんがえらくしつこくって。ちょっと迷惑してたんですよね。それで一回喋ったら、もう二回目も三回目も同じかと思いまして。あんな風に店に居座られ続けると正直こちらも迷惑なんで」
居座る……?
「変な噂が立ってもこっちとしては困るので」と藤堂さんはあっさりと白状した。
「それは最初の鳥谷……さんがしつこくあなたに付きまとっていたと言うことでしょうか」
「いや、付きまとうと言うより店に居座り続けるって感じで。コーヒー一杯で何時間も。正直従業員も迷惑していました」
麻美ちゃんはそこまでして何を聞きだしたかったのだろう。
それに自身をフリーライターと名乗ったのも謎だ。確か麻美ちゃんは専業主婦だった筈。
「あの……その鳥谷…さんが来たのはいつぐらいですか?何を聞いていったのですか?」と聞くと
「来たのは一週間ぐらい前だったかな……」
一週間前―――……テレビ局に私の名前でリークがあって、優ちゃんが倒れたときぐらいだ。
「何を聞いていったのかは、大体アカリさんと同じような内容でしたよ。あ、でも鈴原にピントを当てたようではなく、佐竹のバイトの態度がどうだったとか、そこで恋愛沙汰がなかったかどうかってことを」
麻美ちゃんは一体何でそんなことを―――……?
考えても仕方ないので、私はその場で礼を述べついでに迷惑料と言う形でお店でケーキを購入することにした。それなりに値段が張ったがただで帰るのも申し訳ない。
ケーキを数個購入して、私はその足で陽菜紀の実家に向かった。



