店長の藤堂さんは、お店ではなくスタッフたちの裏方……所謂バックヤードまで私を連れて行ってくれた。お店の中で話す内容じゃないからこちらの方が助かる。
「突然の訪問お許しください。私は陽菜紀の幼馴染で中瀬 灯理と申します」と自分の名前を名乗ると、藤堂さんはちょっとくだけた笑顔で大きく頷き、

「ああ、あのアカリさん」と手をぽんと打った。前に鈴原さんに聞いた。陽菜紀は何かあるとすぐに私の名前を出していた、と。あれは嘘ではなかったのだ。
それにしても、対応が早い。こうもスムーズに行くとは。とちょっと自分の運に感謝していると

「今月に入って女性が私の元に訪ねてきたのはこれで三回目ですからね、流石に慣れましたよ」と藤堂さんは苦笑い。

三回目……

「あの…一度は、こうスラッと背が高くてちょっとボーイッシュな美人の」と私が身振り手振りで伝えると「そうそう」と藤堂さんは頷き「確か……銀行の方だと仰っていたような」と顎に手を置いた。それは沙耶ちゃんだ。ではもう一人は――――……

「もう一人は……その反対で、背も低くて、言っちゃなんですがちょっと地味な感じの主婦っぽい人で……その人が最初でしたね。名前を聞いたけど……忘れちゃったな。確か…動物の名前が入っていたような……」と藤堂さんは首を捻り、動物―――……と言う所で目をまばたいた。

「もしかして、鳥谷―――」と聞くと

「あ、そうそう。そんな名前でした。何かフリーでライターしてるとかどうとか。彼女も佐竹の友人だと名乗っていましたよ」


麻美ちゃんだ。


でも、何で麻美ちゃんが―――
それにフリーライターって………?
私の疑問をよそに藤堂さんは慣れた調子で喋ってくれる。

「佐竹がアルバイトとして働いていたのは今から八年前から約一年です。私はその当時はホールマネージャーでして。佐竹は……まぁ悪い意味じゃないですけれどトラブルメーカーでして」

トラブルメーカー……
「お客様と揉めたと言うわけではなく、どうも身内と仲良くできないタイプだったようで」
それも鈴原さんから聞いた通りだ。

「あの……鈴原と言う男性も当時一緒に働いていたと思うんですが」
「ああ、覚えてますよ。真面目で働き者でした」
「その鈴原さんと陽菜紀が交際していた―――と言う話なんですが…」と切り出すと

「正確には当時付き合ってたわけじゃなく、昔付き合ってたみたいな口ぶりでしたけれど」

昔―――……?

陽菜紀と鈴原さんはアルバイトで知り合ったわけではないのか―――…?