曽田刑事さんは神妙な面持ちで「いいですか、このことは他言無用ですよ」としっかり念を押し、非常階段の出入り口を目配せ。

「ここは幸い、防犯カメラが無い場所で、所謂死角ってヤツです。記録に残ることはないですが、あなたがたは念のため、一階下から降りてください。
俺があなたがたに情報を流したって気づかれたらこっちも大目玉ですからね」

曽田刑事さんは私たちの背中を軽く押し、階下を目配せ。

「でも、沙耶ちゃんが……」と心配して出入り口を見やると
「何かあったらすぐにお報せいたします。ここに居ても荒井さんの容体が良くなるわけじゃない」と曽田刑事さんに言われて、確かに……と頷いた。

曽田刑事さんも自身の立場の危険を冒してまで私たちに情報を流してくれた。ここで私たちが彼を裏切ることはできない。大人しく言われたまま階段を降りようとしたところで、ふと曽田刑事さんを振り返った。

沙耶ちゃんが転落する直前、沙耶ちゃんが言っていたことを思い出す。

陽菜紀は鈴原さんと以前付き合っていた―――

すぐ隣で「急ぎましょう」と鈴原さんが降りていくのを見て、私は沙耶ちゃんの言葉を打ち消すように頭を振った。

関係ないよ。陽菜紀と鈴原さんが付き合ってたことなんて。

結局、そのことを曽田刑事さんに話すことはなかった。