鈴原さんは言葉通り、それから約40分後、コーヒーショップに来てくれて、その後30分が経って曽田刑事さんから連絡があった。曽田刑事さんの話によると沙耶ちゃんは少し離れた総合病院に搬送された、とのこと。何故病院なのか聞くと、電話じゃ詳しくは分からなかったが、どうやら沙耶ちゃんは転落事故に遭って意識不明の重体、緊急手術はしたものの予断が許されない状況だと言う。
電話を受け取った私は足元から力が抜けてその場に崩れそうになったが、途中で鈴原さんが支えてくれて電話を変わってくれ、刑事さんから詳細を聞いてくれた。
「とりあえず、俺らも行きましょう」と言って私の腕を取り支えてくれた鈴原さんは、手際よくタクシーを拾い、そして沙耶ちゃんが搬送されたと言う病院まで向かった。
病院に着くとICUの病棟に促された。ICU……集中治療室…その言葉を聞いて、沙耶ちゃんが想像以上に危険だと言うことを改めて知らされた。恐ろしい事実に手足が震える。
鈴原さんに支えられるようにして、何とか閉鎖的な集中治療室の病棟に向かうと、すでに曽田刑事さんをはじめとする刑事さんたちが数人集まっていて医師に病状の確認などが行われていた。沙耶ちゃんのお母さんと思しき女性も顔を真っ青にして刑事さんの一人と話している。
曽田刑事さんは駆けつけてきた私たちを見つけると軽く手を挙げた。
「中瀬さん!……と…」隣にいる鈴原さんを見ると一瞬だけ眉をひそめると
「鈴原です。以前聞き込みの際に」と鈴原さんが答え、「ああ」と曽田刑事さんはすぐに思い出したように頷いた。
「刑事さん、沙耶ちゃんの容態は」とせっかちに聞くと「先ほども説明した通り、危険な状態です。荒井沙耶香さんは港町の歩道橋の下で、通行人によって発見されました。その方が救急通報を。恐らく歩道橋で転落したものだと」と答えが返ってきた。
歩道橋―――……
転落
何故―――……?
言葉が出ず、ただただ曽田刑事さんとICUのガラスの壁の向こう側に並んでいるベッドを交互に見やっていると
「中瀬さん、ちょっとお話窺えますか」と曽田刑事さんが私の腕を取り、階段がある場所へ促された。そこは普段使われていない非常階段のようで、切れかけの蛍光灯がカチカチと点滅していて薄暗い。
一緒にいた鈴原さんもついてきてくれて
「現段階、警察は事件と事故。両方を考えていますが、俺は荒井 沙耶香さんはあなたとの電話中に何者かによって、突き飛ばされたと考えています」
え――――……



