何―――!?
何が起きたの!?
「沙耶ちゃん!?」思わず勢い込むと、廊下を歩いていた社員の人たちが何事かこちらを振り返った。注目を浴びるのは苦手だけれど、この際どうだっていい。
「もしもし!沙耶ちゃん!」と再度呼びかけても、相手が答えることはなかった。ただ虚しく電車の通る音だけが受話口から流れている。
そして、ガサガサと言うノイズのような音が聞こえてきて、その後電話は完全に切れた。
私は震える手でスマホを握り、目を開いた。最早沙耶ちゃんに何かがあったと言うことは明確だ。次にどうすればいいのか……簡単に思い浮かばず、だけどほとんど無意識に、何故か鈴原さんに電話をしていた。
しかし鈴原さんには繋がらなかった。
どうしよう…
どうしよう!
沙耶ちゃんに何かあったんだ―――…
とは分かっていても、その「何か」を知る術がない。
考えるのよ、灯理。考えるの!
パニックになりそうな思考回路を何とか奮い立たせて、「そうだ!刑事さんなら!」と私は以前から聞いていた曽田刑事さんに電話を掛けた。
幸いなことに曽田刑事さんはすぐに電話口に出てくれた。軽く事情を説明すると曽田刑事さんも緊迫した様子で「分かりました。至急確認します。電車の音がしたんですね」と確認するように聞かれて私は頷いた。
刑事さんは沙耶ちゃんの居場所と安否が確認できしだい、再び連絡をくれると言う。私はお弁当を持ったまま事務所にユーターンして、早番ですでに昼休憩を済ませていた上司に軽く事情を説明して早退する旨を口早に伝えた。そしてお弁当のバッグと通勤用バッグをひっつかみ、スマホを握ったまま慌てて事務所を飛び出た。
かと言っても行くあてがない。沙耶ちゃんがどこにいたのか見当もつかず、アパートに帰って待機しようにも、その道中、曽田刑事さんから連絡があったら……と考えると、とりあえず何かとアクセスが良いこの場所に留まっていた方が賢明だろう。
いつも鈴原さんと待ち合わせするコーヒーショップにとりあえず飛び込み、気持ちを落ち着かせるためにいつもより1サイズ大きめのホットコーヒーを注文した。
待つこと30分。時間はお昼の14:00近くを示していた。鈴原さんからの着信で慌てて電話に出ると
『すみません、お客様と打ち合わせがあって』と鈴原さんは申し訳なさそうにしていた。仕事中なら当然だろう。私は鈴原さんに沙耶ちゃんとの電話の内容を…但し、陽菜紀と鈴原さんが付き合ってたと言う事実は伏せて、聞かせると、鈴原さんも驚いたようだ。
『それで、沙耶香さんは……』
「わからないんです。今、刑事さんに調べてもらってて」と説明すると、鈴原さんはすぐに私の居るコーヒーショップまで駆けつけてくれるとのことで、驚いた。本人曰く
『大丈夫です。今日はこれといってアポがないので、後は事務作業だけですので』とのこと。沙耶ちゃんがわけも分からない緊急事態と言うことで不安で心細かったのもある。私はすぐに頷いて鈴原さんの厚意に甘えることにした。



