その日も変わらずお昼休憩に入る際、同僚たちと「疲れたー」と言い合いながら、お弁当の入った小さなバッグを持ちスマホが仕舞われているロッカーを開く。すぐに誰かからメールや着信がなかったかチェックする。みんなやってることだし。すると着信のランプが点灯していた。今から20分程前だ。
着信は沙耶ちゃんからだった。
同僚たちが各々食堂に向かったり、外食に出たりしようとしているのを見送って私は慌てて沙耶ちゃんに電話を掛けた。沙耶ちゃんにはすぐ電話が繋がった。
「もしもし沙耶ちゃん?」
『あ、灯理ちゃん!良かった~!お昼休みだと思って掛けたの』沙耶ちゃんの声はちょっと弾んでいて、息が上がってると言った方が正しいだろうか、どこか高揚感と緊張感を感じられた。
沙耶ちゃんの背後で、電車が線路を軋ませる音が聞こえてきた。外なのだろうか。沙耶ちゃんは外回りもしてるから、きっと出先から掛けてきたのだろう。
「うん、今入ったところ。何かあった?」
声をひそめて聞くと
『うん、それがね!私、陽菜紀がアルバイトしてたって言うホテル自分なりに調べてみたの』
「え!そうなの!?そんな危ないことして大丈夫?」
思わず聞くと
『刑事たちが調べてるかもしれないけれど、私なりに一応ね。そしたら分かったの…!』
沙耶ちゃんの声が一層高揚したように思えた。電車が通り過ぎる音が聞こえて沙耶ちゃんの声が一瞬聞き取り辛かった。
「何……?何が分かったの…?」恐る恐る聞くと、電車は完全に通り過ぎたみたいで
『陽菜紀ね、やっぱ鈴原さんと付き合ってたみたい―――』
と、沙耶ちゃんのはっきりとした宣言を聞いた。
え―――……?
鈴原さんからはそんなこと一言も……
『当時ホテルに勤務していた正社員の人がまだ残っててね、その人に聞いたんだけど…』と言って沙耶ちゃんが声のトーンを落とした。鈴原さんが陽菜紀と付き合っていた、と言う事実が事件にどう関係しているのか、或はどう影響しているのか分からなかった。けれどその過去は少なからず何か関係していそうだ。
ごくり、と私が生唾を呑み込んだときだった。再び電車が近づく音が聞こえてきた。
『え―――……何であんたが………』
沙耶ちゃんの怪訝そうな声が、電車の音に混じって、受話口の遠くから漏れ聞こえてきて、でもそれが私に向けられた言葉ではないことに気づいた。
沙耶ちゃんは凄く驚いているようだった。
次の瞬間、沙耶ちゃんの悲鳴が聞こえて、もの凄い衝撃音が鼓膜をつんざくような勢いで震えた。



