お母さんの結婚に関してはもはや病気だ、と鈴原さんは苦い顔をした。最後のお父さんは鈴原さんが高校を卒業するちょっと前に離婚していて、卒業を機にとこっちの方へ移ってきて、この付近の大学を奨学金で通い、その間アルバイト三昧だったと言う。陽菜紀と出会ったのもきっとこの時なのだろう。
色々と複雑な家庭環境の中、鈴原さんはそれをちっとも見せず、言っては失礼だけれどかなりまともに育ったのが奇跡だと思う。そんな環境の中、普通だったら道を外すことだってあったろうに、全然“悪い”部分が見えない。
鈴原さんはほとんど面識のない私たちに身の内を話してくれたわけだから、きっと陽菜紀ともこんな話をしていたに違いない。陽菜紀の目には、鈴原さんが今までにないタイプだと……新鮮だったのかもしれない。だから惹かれた、と言えば納得もいく。
それ以外は有力な情報は得られず……と言うかあまり突っ込んで聞くと不審がられる。私たちはキリの良いところで話を切り上げ、帰ることにした。
帰る際「私からも好未や麻美に聞いてみるわ。何か分かるかもしれないし」と沙耶ちゃんが言ってくれて、お願いした。
帰るときも当然のように鈴原さんが私をアパートに送り届けてくれて、そして彼はやはりすぐに帰っていく。
引き留めるつもりはない。
これでいいのだ……これで……
これ以上立ち入っちゃいけない。この先は―――陽菜紀と鈴原さんの大切な部分だ。私が土足で入り込んではいけない。
そうは思っていても、鈴原さんはその後も仕事が終わると律儀に会社近くのコーヒーショップに来てくれて、私をしっかり送りとどけてくれた。
そうして何も進展がないまま、一週間が過ぎた。好未ちゃんとはなかなか互いの都合がつかず会えないまま、そして沙耶ちゃんからも連絡がない。刑事さんも訪ねてくることはなく、最近ではワイドショーも陽菜紀の事件をすっかり忘れてしまったかのように、話題にすら上らなくなった。これは仕方のないことだと思う。毎日のように新しい事件や出来事があるから。目まぐるしく変わる日常の中、
私だけ―――あの日……陽菜紀が殺された日以降止まっている。



