「沙耶ちゃんもSNSやってたりする?」そう言えば私は沙耶ちゃんのSNSを見たことがないし、知らない。

「私~?私はやってない」と沙耶ちゃんが苦笑を浮かべて耳に掛かった髪を掻き揚げる。「自慢できるリアルもないしね」
「わ……私も。陽菜紀のSNS見てたらとてもじゃないけれど、私なんて……って感じで委縮して……そもそも私あんまり写真撮らないし、マメでもないから」
「て言うかさ、陽菜紀も優子も毎回高い食事とか豪華な料理作り過ぎじゃない?まぁ羨ましがられたいんだろうけど。私には無理。経済的にもね。正直、そんな余裕ないよ」

もっともな話だ。

「それにさー、ある程度人気になるとどこで誰の目につくか分かんないじゃん?優子や陽菜紀の場合顔写真もバッチリ写ってるし、私はこうゆうの怖くてできないなぁ。まぁ自慢できる顔じゃないって言うのもあるけどね」沙耶ちゃんは苦笑いで言って吸い終えたタバコの吸い殻を灰皿にぎゅっと押し付ける。

沙耶ちゃんは充分自慢できる顔立ちだと思うけど。でも沙耶ちゃんはキャリアウーマンでそれなりの立場もあるし、確かにどこで誰の目に触れられるかなんて分からない。仕事に影響があるかもしれないことを考えると、あまり派手に行動しない方が賢明だ。

「結局、何も分からずじまいですね」と鈴原さんが隣でちょっとため息をつき、

「役に立てなくてごめん」と沙耶ちゃんが向かいの席で謝った。

「ううん!休みの日なのにわざわざ出てきてくれてありがとう。好未ちゃんにも聞いてみるし」と言うと、沙耶ちゃんはちょっと安堵したように笑った。

事件のことを話し終えて、何となく雑談をしている最中、鈴原さんのスマホが鳴った。
「実家からです。ちょっと出てきてもいいですか?」と鈴原さんは言い、席を外した。
鈴原さんがお店の外へ電話をしにいくのをきっちり見届けると、私は沙耶ちゃんに顔を近づけて充分に声を押し殺して聞いた。

「陽菜紀に好きな人がいた、って知ってる?」