コーヒーを飲みながら、私たちはいきさつを確認する意味で軽く事情を話し合った。沙耶ちゃんも鈴原さんも、昨日の出来事を電話越しに伝えたけれど、ちゃんと全部話せていない気がしたから。

「うーん……問題は何で灯理ちゃんの名前でテレビ局にタレこみがあったかってことだよね」と沙耶ちゃんは難しい顔で顎に手を当て唸るように言った。確認の為に「やってないんでしょ?」と聞かれ、私は顏をぶんぶん横に振った。

二人とも私の話を信じてくれたみたいだ。

「灯理さんをハメるためですよ。陽菜紀を殺した犯人が灯理さんに罪をなすりつけるため」
と鈴原さんが妥当とも言える推理を述べたが

「でもそれだと、ちょっとおかしくない?だって灯理ちゃんに罪をなすりつけるのだったら、もっとこう……決定的な証拠みたいなものを残して置いてきたほうが確実じゃない?遠まわし過ぎるし、灯理ちゃんが否定すれば終わりじゃん。
逆に優子に罪をかぶせるつもりでも、どうして灯理ちゃんの名前を語ったのか、ってところ。ぶっちゃけ灯理ちゃんは優子とそれほど親しかったわけでもないし」
と沙耶ちゃんは流石に頭の回転が速い。もちろん私は全く身に覚えがないのだ。陽菜紀を殺してなんかないし、優ちゃんの不倫相手が陽菜紀のご主人だったことも知らなかった。

「なるほど。確かにそうですね」と鈴原さんが神妙な面持ちで頷き、沙耶ちゃんがその向かい側でシガレットケースから一本タバコを抜き取り口にした。

沙耶ちゃんのタバコが挟まれた指の爪には大人しい色のベージュが品良く彩っていた。左の薬指の所だけにストーンが一つワンポイントで輝いている。

「爪、可愛いね」と何となく話題を逸らすと「あ、うん。ありがと。大学時代の友達がネイリストだからほとんどただでやってもらってる」と沙耶ちゃんは笑う。

友達、か。私は沙耶ちゃんの大学時代の友達を知らない。当然沙耶ちゃんも私の大学時代や今の同僚を知らないだろう。ふと思いついた。

「陽菜紀の……私たちの知らない友達がいたってことは……ないかな」
言って、沙耶ちゃんと鈴原さんが同時に顔を見合わせた。