私はチェストの上に飾ってある香水瓶のセットをちらりと見た。ゴールドのラベルがオシャレで高級感がある。安価なものではない、と気づいた。
でも「おソロ」と言った割には陽菜紀はそれを使っていた様子はない。私と同じようにリビングのサイドボードの上に飾ってあった。「使わないの?」と指摘したら
「だって使っちゃったら無くなっちゃうじゃん?」と、当然な意見がかえってきて。「それに灯理だって飾ってあるじゃん」と言われた。私の場合、香水を付ける習慣がない、って言うか。何か香りだけオシャレしても浮く気がして、なかなか手が出せないだけだ。
その香水瓶の一つを手に取り、はじめてそこで蓋を開けた。中からふわりとどこか上品でグレープフルーツのような柑橘系の爽やかな香りが漂ってきた。陽菜紀が選んだと言っていたが、少しだけ意外な気がした。私は好きな香りだけれど、陽菜紀はもっと女性っぽいのが好きだと思ってたから。
柑橘系の香りを嗅いで、これまたふと思い出した。香水瓶の蓋を閉め、私はカラーボックスの中に仕舞い入れた陽菜紀が私へと送ってきた、丸めた画用紙を取り出す。
最初に画用紙を開けた際に香ってきたのは、もしかしてこの香水かもしれないと思っていたが、再度画用紙に鼻を近づけると、香水とは少し違う香りだと言うことに気づいた。画用紙の香りは香水とは違って、覚えのある、どこか懐かしさも感じる香りだ。
画用紙に描かれた四角と星の形。それを近づけたり遠ざけたりして見るも、四角と星以外書かれている文字もないし記号もない。しかも幼稚園の時にクレヨンで描いたものだから、あまり触るとクレヨンが滲んでしまう。結局、新しい発見がないまま再び丸めてカラーボックスの中へ仕舞い入れた。
仕舞入れる際、同じ段に、段ボールの箱に入れたままの四角い鏡が仕舞入れてあることを思い出す。



