未完成の恋ですが。~俺様建築士と描く未来の設計図~

 「それで、今日はどこに向かっているんですか」

 車窓の景色は、市街地から人家もまばらな山に変わっている。
 黒川は答えた。

 「穂坂杉の製材所」

 「えっ、穂坂杉、ですか」

 莉央は思わず聞き返す。

 「黒川会長に『代わりの木材のヒントをいただけませんか』ってお願いしたら、ひとこと、『穂坂杉』って」

 「……へえ。まさか、親父と俺が、同じ発想にたどりつくとはね」

 黒川が口元を緩める。

 「穂坂杉は、昔は地元の家の建設によく使われていたけど、杉の病気が蔓延(まんえん)したのがきっかけで伐採されなくなったんだ。今はほとんど市場に出回っていない」

 「それで、私が調べても詳しい情報が得られなかったんですね」

 うなずく黒川。

 「職人ルートで当たってみたら、在庫を持ってる製材所があって、今日、見せてもらえる段取りをつけた。……にしても」

 黒川が拳を口元にあてて、肩を揺らした。

 「乗り込んでって、ヒントまでせびってくるとか。お前、ほんと、すげーやつだな」

 「笑わないでください。私、必死だったんですから!」

 むくれる莉央に、黒川は声をたてて笑う。「でも」と彼はわずかに声を小さくした。

 「俺は、お前のそういうとこ……好き、だけど」

 「……!」

 ひとつひとつ区切って告げた黒川の横顔をはっとして見ると、彼の形のいい耳が赤く染まっていた。