冬弥side
いつからだろうか。
こんなに好きになったのは。
初めて彼女を見た印象はボロボロ。
服は破れて、痩せ細り、呼吸音は最悪だった。
橋本組に売られて、逃げてきた女なんて、いったい何をやらかしたんだ。めんどくさい女に決まってる。
雅人に指示されたから、仕方なく治療した。
冬弥はこの見た目ということもあり、よくモテる。と言ってもヤクザを好きな女だ。そいつもそれなりに男と遊び、派手でブランド好き。風俗やキャバクラで働いている女が多かった。俺は女を愛したことはない。ただ欲求を満たすための生き物のように思っていた。
目を覚ました彼女はヤクザという言葉を酷く怖がった。そして震える手でおもちゃになろうとした。
俺は慌てて、その手を止めた。喘息の状態が悪かったこともあるが、それだけじゃない。
女に興味ない俺でも彼女は体を売るなんてことが似合わないと思った。
彼女はベッドに横になったままなにも言わない。しんどそうなので声をかければ、大丈夫だと言う。こちらに少しでも負担をかけないよう気を使っているのが伝わる。
我慢しすぎて、しんどそうにしている所をみてると気の毒に思った。元々の性格もあるのかもしれないが、橋本組での時間が彼女を追い込み、自分を表現できなくなっているのは確かだった。
少し体調が良くなってきた時、お粥を食べるように言った。お粥を口にした後、初めて少し微笑んだ。
そしておいしいですと一言だけ言って、ぽろぽろと涙を流した。
彼女は呼吸が辛くて涙することはあったが、心からの涙を流したのはここに来て初めてだった。
彼女は泣いていることを隠すかのように、手で涙を拭き、顔をおおう。
汚れのない綺麗な涙だと思った。
俺はこういう時なんて言ってあげたら良いか分からない。優しい言葉の1つや2つ言えた方がいいのだろうが、なにも浮かばない。だけど、ほってはおけず、ただ隣にいた。彼女の心の闇が少しでも軽くなればいいと思いながら。
真也に自己紹介していないことを怒られた。この歳になって今さら、自己紹介なんて何を言うんだって思った。
仕事の関係やその日だけの女にはあえて自分の事情は話さない。
極道の世界の仕事は結果が全てだし、女とはどうせその日でさよならするんだから、言う必要がない。
ただ彼女には学生の時にやったような自己紹介が求められていると感じた。柄にもなく、自己紹介したら、彼女はかわいく笑った。
名前呼ぶ時に少し恥ずかしそうにする姿は、男慣れしておらず、彼女の純粋さをそのまま現しているように思った。今まで会った女で名前を呼ぶことを照れる人なんて見たことがない。冬弥さんと彼女に呼ばれると柄にもなく笑みが零れた。
ヤクザが怖いと聞けば、隠そうとする。なんでも我慢して隠してしまう彼女の笑顔を少し見て、本来の彼女の姿がみたくなった。
それから体調が良くなり、ベッドの上で起きて過ごすようになる。ただ暇だとか動きたいなんてわがままを言うことはなかった。さすがになと思い、本を取りに行こうとしたら、彼女が俺の星空のスケッチを見て、綺麗だと言った。
じっと絵を見つめる彼女の姿になぜか釘付けになり、目が離せなくなった。
そして彼女が初めて自分の生い立ちを少しだけ話して、また満天の星空を見たいと言った。ここに来てからずっと閉ざされていた彼女の暗い瞳にわずかな光がみえた。
その瞳を見て、また満天の星空が見れると柄にもないキザなセリフを吐いた。その時はなぜこんなこと言ったのか自分ではよく分かっていなかったが、振り返ってみるとあの時にはもう彼女に惚れていたのかもしれない。
その後、彼女は俺の描くスケッチを見ていた。なにか話すわけじゃない。だけど、そばにいるととても居心地がよかった。
いつからだろうか。
こんなに好きになったのは。
初めて彼女を見た印象はボロボロ。
服は破れて、痩せ細り、呼吸音は最悪だった。
橋本組に売られて、逃げてきた女なんて、いったい何をやらかしたんだ。めんどくさい女に決まってる。
雅人に指示されたから、仕方なく治療した。
冬弥はこの見た目ということもあり、よくモテる。と言ってもヤクザを好きな女だ。そいつもそれなりに男と遊び、派手でブランド好き。風俗やキャバクラで働いている女が多かった。俺は女を愛したことはない。ただ欲求を満たすための生き物のように思っていた。
目を覚ました彼女はヤクザという言葉を酷く怖がった。そして震える手でおもちゃになろうとした。
俺は慌てて、その手を止めた。喘息の状態が悪かったこともあるが、それだけじゃない。
女に興味ない俺でも彼女は体を売るなんてことが似合わないと思った。
彼女はベッドに横になったままなにも言わない。しんどそうなので声をかければ、大丈夫だと言う。こちらに少しでも負担をかけないよう気を使っているのが伝わる。
我慢しすぎて、しんどそうにしている所をみてると気の毒に思った。元々の性格もあるのかもしれないが、橋本組での時間が彼女を追い込み、自分を表現できなくなっているのは確かだった。
少し体調が良くなってきた時、お粥を食べるように言った。お粥を口にした後、初めて少し微笑んだ。
そしておいしいですと一言だけ言って、ぽろぽろと涙を流した。
彼女は呼吸が辛くて涙することはあったが、心からの涙を流したのはここに来て初めてだった。
彼女は泣いていることを隠すかのように、手で涙を拭き、顔をおおう。
汚れのない綺麗な涙だと思った。
俺はこういう時なんて言ってあげたら良いか分からない。優しい言葉の1つや2つ言えた方がいいのだろうが、なにも浮かばない。だけど、ほってはおけず、ただ隣にいた。彼女の心の闇が少しでも軽くなればいいと思いながら。
真也に自己紹介していないことを怒られた。この歳になって今さら、自己紹介なんて何を言うんだって思った。
仕事の関係やその日だけの女にはあえて自分の事情は話さない。
極道の世界の仕事は結果が全てだし、女とはどうせその日でさよならするんだから、言う必要がない。
ただ彼女には学生の時にやったような自己紹介が求められていると感じた。柄にもなく、自己紹介したら、彼女はかわいく笑った。
名前呼ぶ時に少し恥ずかしそうにする姿は、男慣れしておらず、彼女の純粋さをそのまま現しているように思った。今まで会った女で名前を呼ぶことを照れる人なんて見たことがない。冬弥さんと彼女に呼ばれると柄にもなく笑みが零れた。
ヤクザが怖いと聞けば、隠そうとする。なんでも我慢して隠してしまう彼女の笑顔を少し見て、本来の彼女の姿がみたくなった。
それから体調が良くなり、ベッドの上で起きて過ごすようになる。ただ暇だとか動きたいなんてわがままを言うことはなかった。さすがになと思い、本を取りに行こうとしたら、彼女が俺の星空のスケッチを見て、綺麗だと言った。
じっと絵を見つめる彼女の姿になぜか釘付けになり、目が離せなくなった。
そして彼女が初めて自分の生い立ちを少しだけ話して、また満天の星空を見たいと言った。ここに来てからずっと閉ざされていた彼女の暗い瞳にわずかな光がみえた。
その瞳を見て、また満天の星空が見れると柄にもないキザなセリフを吐いた。その時はなぜこんなこと言ったのか自分ではよく分かっていなかったが、振り返ってみるとあの時にはもう彼女に惚れていたのかもしれない。
その後、彼女は俺の描くスケッチを見ていた。なにか話すわけじゃない。だけど、そばにいるととても居心地がよかった。



