雪菜は初めて冬弥の部屋に連れてこられた。

全体的に荷物が少ない。
淡白な部屋に医学書が並んでいる。服も黒や灰色のものが数枚クローゼットにかかっているだけだ。


カーテンも無地のネイビーであり、冬弥っぽいなと思う。


「どうしたんですか?」

いつもと違う様子の冬弥を不思議に思う。


「雪菜、好きだ。」

まっすぐ目を見て告げられる。


えっ……


雪菜は驚きで目を丸くする。自分は振られたのだとばかり思っていたから。


「この前、雪菜が好きだって言ってくれて、本当はとても嬉しかった。
だけど、俺たちは住む世界が違う。雪菜みたいな純粋で優しい子を極道の世界には連れ込めない。だから俺たちはこのまま何もなく離れるべきだと思った。
だから、何も言えなかった。

ごめんな。」


雪菜はフリフリと首を横に振る。



「俺はずっとここで生きてきた。それなりに悪いこともしてきてる。だから、雪菜みたいなかわいい子に俺は釣り合わない。そう思ってるけど、俺は雪菜を諦められない。そばにいたい。好きなんだ。」

冬弥はじっと雪菜の目を見つめて、一呼吸置き、覚悟を決めた顔をする。


「俺は足を洗って、医者になろうと思う。幼い頃はずっと医者になりたかった。だけど、この世界にいたし、そんな気持ちには蓋をしてきた。受験して、大学行って、医師免許を取ろうと思う。

そして雪菜と一緒に生きていきたい。ここを出たら一緒に暮らさないか。」


雪菜はあまりのことに驚きを隠せない。


「冬弥さんは京極組を出ても大丈夫なんですか?」

こういう世界だ。簡単に足を洗うなんて出来るのだろうかと心配に思い、雪菜は聞く。


「問題ない。」
冬弥ははっきりと言う。



「嬉しいです。私、冬弥さんと一緒に暮らしたいです!」

雪菜は涙目になりながら言う。


「俺でいいのか?雪菜の苦手なヤクザの人間だぞ。」


冬弥が不安そうにたずねる。


「私は冬弥さんが、極道の人でよかったと思ってます。冬弥さんが京極組の人だったから、出会えました。体を治してもらっただけじゃなく、たくさん支えてもらいました。命の恩人だと思ってます。感謝してもしきれません。極道の人を怖いと初めは思ってました。だけど、京極組のみなさんに出会って、冬弥さんに出会ってその考え方はかわりました。今はヤクザにもたくさんいい人がいるって思ってます。」

雪菜は微笑む。


「私は冬弥さんが大好きです。そばにいたいです。」

雪菜の言葉を聞いて、冬弥は力強く抱きしめる。


「一生離さないから。覚悟して。」


冬弥はそう呟き、雪菜の唇にキスをした。






2回目のキスは幸せの味しかしなかった。