夜、コンコンと部屋の襖を叩く音がする。

雪菜ははいと言って、出ると冬弥がいた。

「新しい吸入薬、前のやつそろそろなくなる頃だったろ。」

吸入薬には残回数が表示されており、雪菜もそろそろなくなるなと思っていた。

体調悪かった時は冬弥がずっとそばにいてくれてたが、今では冬弥も自分の部屋に戻っており、最近は食堂で少し見かけるだけで、ほとんど会話がなくなっていた。

食堂で見かける冬弥はよくスーツを着て、髪をオールバックで固めていた。なんとなくその時の冬弥には話しかけずらかった。ただ今の冬弥はお風呂に入ってきたのだろう。少し濡れたテクノカットの前髪が揺れる。

「ありがとうございます。」

「うん。じゃあおやすみ。」

冬弥は吸入薬を渡すと、去ろうとする。



雪菜は急に寂しくなる。
今の生活に不満があるわけじゃない。こんな自分に充分すぎる待遇をしてもらってると思う。みんな優しいし、叔父夫婦の家にいた時と違って、料理を褒めてくれたり、感謝もしてくれる。

ただ、時折自分だけが他人なんだと思う瞬間がある。
組員でも、京極家の家族でもない。
みんなと違うという孤独感にさいなまれる。

雪菜は我慢強いとはいえまだ16歳の少女だ。
両親に会いたい、友達に会いたいと思うし、やっぱり橋本組での出来事を思い出して、怖くなる日もある。


雪菜は無意識に去っていく冬弥の背中のシャツを掴む。

冬弥は驚いて、振り返る。

「どうした??」

冬弥に言われて、はっとシャツを離す。

「ごめんなさい。何でもないです。
薬ありがとうございます。おやすみなさい。」

雪菜は自分の弱い所がでてきそうになり、頭を下げて、慌てて襖を閉めようとする。

「雪菜、ちょっと中入っていい?」

襖を閉める手を止められ、聞かれる。

「……はい。」

冬弥はそう言って部屋の中に入った。