冬弥は聴診器をあてる。

「よくなったな。もう、ベッドに寝たきりじゃなくていいぞ。」

「ありがとうございます。」

冬弥に言われて、ほっとするとぺこりと頭を下げて感謝する。

冬弥のスケッチを見ていたのは2日ほどだったが、雪菜にとってとても楽しい時間だった。星空が広がっていく、暗いスケッチに星の明かりがきれいに輝いていくのを見ているとすごく心に活気がわいた。
暗闇にも明かりが灯るよと教えてくれているような気がした…。

完成した時にあまりにも綺麗、素敵だと言えば冬弥がピリッと1枚めくってその絵をくれた。

これから辛いことがあってもこの絵をみて頑張ろうと思えた。


雅人が部屋にやって来る。


「雪菜ちゃん、体調よくなってきたみたいだね。良かった。」

「ありがとうございます。」

雪菜はぺこりと頭を下げる。

雅人は最近ハマってるゲームの話や見た動画の話などをする。話術の高い雅人の話に引き込まれた。


しばらくして、雅人の表情が少し変わる。

「雪菜ちゃん、これからの話をしようか。
本来なら児童養護施設を紹介して、そこで生きていくことを選んでもらう。ここは裏の世界だ。君のような一般人がいる場所じゃあないし、俺らも極道で生きる術を何も持たない君を養う意味はない。
ただ、橋本組が血眼になって今、君を探している。児童養護施設に戻れば、組の人間に見つかって引き戻される可能性が高い。」

「児童養護施設の中にいれば、安全じゃないんですか?」

雪菜は不安そうに尋ねる。

「あくまであそこは育てる場所だ。警護する人間がいるわけじゃない。それに橋本組は手段を選ばないだろう。」

雪菜の手が震える。それを慌てて隠そうと手を後ろにやる。

「そこでだが、ここで働くというのなら、置いてやる。ここは200人ほどの組員が住んでいる。掃除洗濯料理などは俺の母と妻とあとは組員で交代でしている。最近は忙しくてな、組員はできるだけ仕事に回したい。朝は早いし、毎日働いてもらう。休みの日なんてない。それでもやるか?」

「ここにいれば、橋本組に狙われないってことですか?」

「狙われるだろうが、そこは守ってやる。ただ君の働き次第では養護施設に行ってもらう。使える人間しかここにはいらない。」

雅人の言い方は冷たく聞こえるが、当然のことだ。何も持たない自分をただ守ってもらおうなんて虫がよすぎる。売られた身で今更、甘えたことは言えない。雪菜は決意する。



「働かせてください。」



雪菜は正座をして頭を下げる。

「わかった。ただ体調のこともあるから、初めの頃の働き方は冬弥と相談して決めろ。」

「分かりました。よろしくお願いします。」

「よろしくな、雪菜ちゃん!」

雅人はニカッと笑ってみせた。