雪菜は少しずつ食事量が増えており、喘息治療のため、毎日吸入薬を吸っている。

まだ安静が必要らしく、ベットに横になっていた。

冬弥は相変わらず絵を描いている。

前みたいに気まずくはないし、困ったことがあれば声はかけられるが、決して会話は多くない。

冬弥の色鉛筆の音だけが響く。

何を書いてるのだろうか?
気にはなるが、集中しているようで話しかけられない。

やることもないので、冬弥が描いている姿を見ていると目が合う。

「なに?」

「あっいや、なんでもないです。」

見ていたのがバレてしまい恥ずかしくなる。

「まあ暇だよな。体調も良くなってきてるし。」

冬弥はそう言って、ベットについてる机にスケッチブックを置き、何かを取りに行こうとする。



「綺麗……」

雪菜の一言が部屋に響く。

スケッチブックには星空が広がっていた。

「あー、これちょっと前に山行って見た風景。綺麗だったから、なんとなく描きたくなっただけ。」

冬弥はそう言ってスケッチブックを閉じようとするが、雪菜が見たことないくらい優しい顔をしており、手が止まる。

「私、昔は田舎に住んでたんです。だから、満天の星空をよく見てたんです。最近は見てなかったなと思って。なんだか懐かしくなります。」

叔父夫婦に引き取られるまでは田舎街に両親と3人で住んでいた。田んぼや畑ばかりで、何もないところだったけど、いつも家の中は明るさで満ちていた。満天の星空のもと、家族で笑い合う。そんな幸せでいっぱいの日々だった。

雪菜はしばらく絵を見つめる。


「冬弥さんの絵で元気もらいました!!
いつか、また育った街で星空を見たくなりました。今の現状じゃあなかなか厳しいですけど、色々頑張ります。」

雪菜は売られて初めて、少しだけ前を向けた気がした。


「見れるよ。満天の星空。」

雪菜の目をまっすぐ見つめて言う。
別に慰めようと思ったわけじゃない。お世辞なんて言うような性格でもない。
ただ、なんとなく見てほしいと思った。

なんでこんな感情になったのかもよく分からない。

「ありがとうございます!」

冬弥の言葉に雪菜が笑顔で微笑む。


「雪菜、暇になってるだろ。本でも読むか。」

先程、取りに行こうとしていたのを思い出す。家に共有の本棚がある。本好きなやつが読んでいる。冬弥も何冊か読んだことがある。

「じゃあ冬弥さんのスケッチ見ててもいいですか?星空がもっと広がっていく様子がみたいです!」

「あー、いいけど、それじゃあ暇じゃね?」

冬弥が不思議そうに言う。

「全然暇じゃないです!楽しいです!!」

雪菜がうきうきした表情で話す。

「変なやつ。勝手にしろ。」

冬弥は今までと反対の、ベットの下で背を向けて座る。
背中越しにスケッチが見える。雪菜は色鉛筆が動いていく様子をただじっと見ていた。