「冬弥くん、今日もありがとうね。」

真希が診察の合間の冬弥にコーヒーを渡す。
冬弥は診察自体は休憩となっていて、部屋には誰もいなかったが、血液検査の結果などを見ていた。

「いえ。コーヒーありがとうございます。」

そう言って、冬弥はコーヒーを受け取る。

「姐さん、血圧安定しててよかったです。」

去年の健康診断で真希は血圧が高いことが分かった。今は降圧剤を服用しており、病状は安定している。


真希の病状を気にかけて、冬弥は3ヶ月に1度はオンライン診察、半年に1度は屋敷に来て診察して薬を渡している。

何度も訪れられたらいいのだが、極道と繋がりがある事が世間にバレるとよくない。冬弥達が別の組から狙われる可能性も出てくる。


今日の健康診断もかなり慎重にやって来ていた。


「全部無料でしてくれるなんて本当にいいの?前回もお世話になってるし。」

真希がたずねる。

「いいんです。俺がやりたかったことなので。雪菜も了承してくれてますし。俺が今こうして生きられてるのは京極組の皆さんのおかげですから。雪菜も京極組の人のおかげで命があるって言ってます。」

冬弥の発言に真希はありがとうと微笑む。


「でも、私の薬代は払うわよ。さすがに申し訳ないから。」

そう言って財布を出そうとする真希の手を冬弥は止める。


「姐さんは俺にとって特別ですから。
大学に通ってた頃、下宿の奴も多くて、実家の飯が食べたいってみんなよく話してたんです。それぞれの好きな母親の料理を言う機会があって、俺も聞かれたんですけど、迷わず姐さんの料理を言いました。
俺は姐さんのこと母親のように思ってます。だから、元気にいてもらわないと困るんです。」


冬弥がやや恥ずかしそうにする。

真希は大きく目を見開いた後、優しく目を細める。


「なんの料理が好きって言ってくれたの?」

「オムライスです。」

「今度息子のために作るわね!
私はこんな素敵な息子がいて幸せ者ね。」


2人の間に照れくさいけど温かい、穏やかな空気が流れる。


「今度、孫のためにも作ってやってください。」

「えっ。」

真希が驚いた表情をする。

「今、雪菜が妊娠5ヶ月なんです。」

それを聞いて真希の顔がほころぶ。

「おめでとう!雪菜ちゃん今日もたくさん働いてくれてるけど、体調大丈夫なの?」

「はい、今は安定期で体調は落ち着いています。今日は雪菜がみんなに会いたがってて、連れてきたんです。まあ、何かあっても俺もいるし、大丈夫かなと思ったんで。」


真希は安心した表情をして、

「頼もしいお父さんになったわね。」

と優しく言った。