「雪菜、行くか!」

冬弥がそう言って雪菜の部屋に呼びに来る。


12時に家を出ると大介達には伝えた。
昨日も飲み会でお世話になりましたと挨拶したし、そっと出ていこうと思う。


冬弥が大きなスーツケースを1つ買って渡してくれた。そこに雪菜の荷物はほとんど入っている。冬弥も荷物が多いタイプではないのでスーツケースの中には医学書と服が何枚か入っているだけだった。


玄関に行くと多くの組員が待ってくれていた。

去ろうとした時、大介が声をかける。

「冬弥、元気でな。なかなか会えないけど、困った時は言ってくれ。必ず助ける。
お前は俺の息子だ。
雪菜ちゃんと幸せにな。」


大介の息子だという言葉に冬弥の中の何かが弾けた。

「お世話になりました。」


冬弥は頭を深く下げる。
「何も持っていない俺を拾ってくださり、たくさんのことを教えていただいたこと本当に感謝しています。感謝なんていう言葉では物足りないです。
何も返せてないのに俺、、、。
本当にすみません。
でもいつか医者になって、必ず恩返しします。
ありがとうございました。」

冬弥は頭を下げたまま、涙が地面に零れる。
なかなか頭を上げられない。

大介が近寄り、冬弥をぎゅっと抱きしめる。

「お前に出会えてよかった。
立派な医者になって、多くの命救ってこい!
雪菜ちゃん大切にするんだぞ。」

「…はい。」

冬弥はなかなか涙が止まらず、雅人や真也も駆け寄る。


雪菜と一緒にいたい。医者になりたい。
だけど、長く共に生活してきた仲間と離れるのは寂しい。いつも冷静な冬弥だが、募る想いがあった。


「雪菜ちゃん、冬弥のことよろしくな。何かあれば必ず相談しにきていいんだぞ。」

大介は隣にいた雪菜の肩をそっと叩いて微笑む。

「ありがとうございました。」

雪菜の目にも涙が浮かぶ。


「雪菜ーーー泣」

桜が雪菜に抱きつく。

「雪菜にとっていい事だから笑顔で送り出そうと思ったけど、やっぱり寂しいよー。」

「桜さん。私もとても寂しいです。桜さんにはお世話になりっぱなしで、私……」

雪菜はそう言って涙をこぼす。

「そんなことない。たくさん手伝ってくれたじゃん。それに私にとって雪菜は妹みたいなものだから。姉の私が面倒見るのは当然なの!何も気にしないで!
元気に過ごしてね。」

桜の優しい言葉に雪菜の目から涙が溢れる。


真希も2人の旅立ちを温かく見守った。
今回、冬弥が足を洗うことを初めに提案したのは真希だった。
冬弥や雪菜の気持ちにいち早く気づき、彼らの幸せを考えるべきだと伝えた。

大介や雅人は冬弥が抜けることを当初は反対していた。
冬弥は仕事ができるし、この組に必要な存在だったから。

だけどいつもクールな冬弥の雪菜への想いを見ていると、2人の心も揺れ動いた。

家族のように思う冬弥の幸せを考えて、足を洗うことに賛成した。なかなか話し合いがもつれこみ、冬弥に提案するのが雪菜が出て行くギリギリになってしまった。