愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています



瞼が重い。でもそろそろ起きなくちゃー。

ユスティーナはゆっくりと目を開けた。頭がぼうっとして、視界もぼやけている。暫くそのままでいると次第に意識も視界もハッキリとしてきた。自分の部屋だと思ったが、見慣れない天井が見える。

「ここ、は…………わたし……」

どうして見慣れぬ部屋のベッドで寝ているのだろうか。全く覚えていない。ユスティーナは起き上がろうとする。だが、身体が上手く動かない。痛みなどは感じないが、力が入らないのだ。そんな時、扉が開く音がした。身体が動かないので誰が入って来たのかは確認出来ない。足音が段々と近付いて来るが、少し手前で音が止まったのを感じた。

「ユティ、今日はオレンジの薔薇が咲いたから摘んできたんだ。赤や白も良いけど、これが君には一番似合うかも知れない」

「……ヴォル、フラム、さま……?」

「っ⁉︎ユスティーナ⁉︎」

声で誰だか直ぐに分かった。ユスティーナが彼の名を呼ぶと、その瞬間物が割れる音が響く。だが彼は気にも留めていないのか、ベッドへと駆け寄って来た。

「ユスティーナッ⁉︎」

彼は倒れ込む様な勢いでベッドに手をつき、ユスティーナの顔を覗き込んでくる。そんな光景に目を見張っていると、彼の揺れる蒼眼と目が合った。

「ヴォルフラム、さま……どうされ」

ユスティーナが言葉を言い終える前に、ヴォルフラムはユスティーナの身体を抱き締めた。

「ユスティーナッ‼︎ユスティーナ……良かった、目が覚めたんだね、良かった……もう、目を覚さないんじゃないかと、思って……しまったよ……」

歓喜の声を上げた彼は、ユスティーナの肩に顔を埋める。彼の身体の温もりを感じる一方で、少し震えているのが伝わってきた。そんならしくないヴォルフラムの様子に、ユスティーナは戸惑う。

「あの……わたしは、一体どうしたのでしょうか……全く、覚えていないんです……」

「……」

ヴォルフラムは暫し無言になり、ゆっくりとユスティーナから身体を離すと、手短な椅子に腰掛けた。

「……君は、燃え盛る炎の中へリックを助ける為に、飛び込んだんだよ」

その言葉に一気に記憶が蘇る。

「っ⁉︎」

そうだ、ジュディットが教会に火を放ち、リックが取り残されていると知り、助けに向かった……。宝物箱を取りに行ったと聞いていたので、子供部屋へと向かうが煙と炎で方向感覚はなく途中混乱してしまい……だがそれでも燃え盛る炎の中を無我夢中で走った。そんな中、リックの姿をようやく見つける事が出来安堵した。しかしそれも束の間で、リックの側の瓦礫が崩れるのが視界に入る。ユスティーナはリックを庇いそして……そこから記憶は途切れている。

「リックはっ、リックはどうなったんですか⁉︎」




◆◆◆


記憶を思い出した彼女は声を荒げ、身体を起こそうとするが上手くいかずベッドから落ちそうになる。それを慌ててヴォルフラムは支えた。

「ヴォルフラム様!リックはっ」

だがそんな事はお構いなしに彼女は必死にリックの事を聞いてくる。
その姿にヴォルフラムは呆気に取られた。そして思わず、泣き笑いの様な表情になる。

「ハハッ……君はどうしてそうなんだ」

普通ならば、先ずは自分の心配をする。それなのに彼女は思い出して開口一番、人の心配をしている。何処までお人好しなんだろうか……自分にはない感情だ。

「大丈夫だよ、軽い火傷と擦り傷はあったが彼は無事だ」

「そう、ですか……良かった……」

安心した様子で彼女は息を吐くと、笑った。その笑みはまるで聖母の様だと思った。どこまでも慈悲深く温かく、優しかった。