「……もしかして、怒ってる?」

訳が分からないまま彼に促され、こんな所で横になっているが、冷静になって考えてみれば色々おかしい。ヴォルフラムとジュディットが婚約破棄していた事にも驚愕したが、自分とヴォルフラムが婚約したと言う事実が未だ信じられない。

『じゃあ、まっさらになったらまた来るよ』

騙された……ー。

あの時の言葉が頭に過り、そんな風に思ってしまう。まっさらにって、何だろ……あの時彼は既に婚約破棄していた。どう言う意味で言ったかは分からないが、もしかしたら揶揄われたのかも知れない……。彼ならあり得る。

「ねぇ、ユスティーナ」

ギシッと音が聞こえると同時に、ベッドが軋む。その事にヴォルフラムがベッドの上に上がって来たのだと分かった。息を呑み、身体を強張らせる。

「何か言ってよ」

あんなに自信満々に意地悪そうに笑ったり、淡々と語り冷笑したりしている彼が嘘に思えるくらい、頼りない声色がする。

「ユティ、ねぇ」

「っ⁉︎」

シーツの上から抱き締められて、心臓が跳ねた。

「僕の事、嫌いになっちゃった?」

「……」

何かこの方色々ズルい、と思う。甘えた声で縋り付く様に抱き締めてくる。しかも此処ぞとばかりに愛称で呼ぶ。それに、さっきだってジュディットに追い詰められ、もうダメだと思った時、タイミング良く彼が現れた。ヴォルフラムを見た瞬間酷く安堵した自分がいた。戸惑いながらも、少し……格好良いと思ってしまった。彼の少し意地悪い笑みに、心臓が脈打つのを感じた。思い出すと何だか落ち着かない。だがそこまで考えて、我に返り少し冷静になる。

絆されてはダメ!ー。

ユスティーナは、絆されてはダメ、絆されてはダメ、絆されては……と頭の中で呪文の様に繰り返す。

「そうだよね、相談もなしに勝手に婚約の話進めて君に報告する前に、公にしちゃったから……怒るのは当然だよね……」

意外な彼からの言葉に、自覚はあるんですね、と内心苦笑する。

「……少し、怒ってます」

ポツリとそう言うと、彼の自分を抱き締めている腕に力が入るのを感じた。

「ごめん。君と結婚出来るかもって思って、舞い上がり過ぎてたみたいだ。でも、それくらいユティが好きなんだ……。僕は君が欲しくて仕方がない。……ユティ、僕、君に嫌われてしまったら、どうにかなってしまいそうだよ。お願いだから、嫌いにならないで……」

ヴォルフラム、殿下……ー。

苦し気に話す彼に、心臓が締め付けられる。その間も彼は「ごめんね」と独り言の様に何度も呟いていた。絆されてはダメ、絆されてはダメ……とは思うが、段々と可哀想に思えてくる。

「……」

ユスティーナはモゾモゾとシーツの中で動くと、ヴォルフラムは少し力を緩めた。ユスティーナは身体の向きを変え、顔だけをシーツから覗かせた。すると彼の不安気な瞳と目が合う。

「あの…………別に、嫌いとかにはならない……です」

戸惑いながらそう告げると、彼の顔は一瞬にして満面の笑みに変わった。

「ユティ、赦してくれるんだね。ありがとう」

「え、あの、それとこれはまた別の……⁉︎」

話です、と続けようとしたが出来なかった。何故なら唇を彼のそれで塞がれたからだ。

「っ‼︎……んっ、ぁ」

最初は触れるだけだったが、彼の舌がユスティーナの唇をなぞる様に舐めてくる。思わず変な声が洩れてしまい、恥ずかしさに身体が熱る。

「ヴォルフラム殿下っ……」

暫くしてようやく解放されたユスティーナは、抗議の意味で彼を睨むと、お得意の意地悪そうな笑みを浮かべ舌舐めずりをした。その様子に更に顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。

「想像していたよりも、遥かに柔らかくて甘かったよ」

「っ……⁉︎」

耳元で囁かれ、ユスティーナは身体をピクリと震わせた。

また、騙された……ー。

恥ずかしさに涙目になり彼を見ると、満足そうに微笑み身体を引き寄せられ、また抱き締められる。絆されてはダメと思いつつ、彼の腕の中に大人しく収まった。