『……最近、距離置いてる?』


それは、俺が勇気を出して発した言葉だった。


少し前までは、彼女の笑顔を見られるだけで幸せだった。


仕事終わりに一緒に片づけて、たわいもない会話して、


それだけで心が満たされた。


だけど、ある日から急に──


彼女は俺を避けるようになった。


視線も合わせないし、前より口数も少ない。


何かに気づいたのか?


俺が「天音ルイ」だと。


──だったら、嫌われたってことか。


正体を隠して近づいたことが、彼女にとっては裏切りだったのかもしれない。


そりゃそうだ。


俺は、推しとしての顔と、現実の顔を、分けて生きていたんだから。


でも……俺の中では、もう“推しとファン”の関係じゃなくなっていた。


彼女を、“ひとりの女の子”として好きになっていた。