男たちは一瞬、怯んだように見えたが、すぐに嘲笑を浮かべた。


「なんだよ、あんた。この子と知り合いか?
関係ねぇだろ」

一人の男が絡むように言った。


勝は一切動じることなく、静かに繰り返した。

「彼女に触れるな。今すぐそこを離れろ」

男たちは互いの顔を見合わせ、やがて苛立ちを募らせたように舌打ちをした。

「ちっ、つまんねぇ」

そう吐き捨てると、男の一人がまなみの腕を掴んだまま、さらに力を込めて引き寄せようとした。


その瞬間、勝は稲妻のような速さで動いた。男がまなみを引くよりも早く、勝の手がその男の腕を掴み、まるで枯れ枝を折るかのように捻り上げた。


男は「ぐあっ!」と情けない声を上げ、掴んでいたまなみの腕を離してその場にうずくまった。


しかし、彼らは多勢に無勢とばかりに、残りの男たちが一斉に勝に襲いかかってきた。

一人の男が振り下ろした拳を軽くいなし、その勢いを利用して体勢を崩させると、もう一人の男の顎に見えないほどの速さで相手を打ち込んだ。

勝は、倒れた男たちに何の感情も浮かべない声で言った。


「二度と、彼女に近づくな」


男たちが逃げて行った。


「大丈夫ですか?」

まなみがゆっくりと顔を上げると、心配そうに見つめる彼の瞳と視線が合った。握手会で感じた、あの不思議な安心感が再び胸に広がる。

「あ、はい……ありがとうございます。助けていただいて……。あの、お名前は…?」


震える声で礼を言うと、そっと手を差し伸べてくれた。その手を取ると、温かい感触が伝わり、すっと立ち上がることができた。


「なぜ、ここに……?」
まなみは尋ねた。


「僕は川上勝いいます。さっき散歩していました。
まさか、五十嵐さんに会うとは思いませんでしたが」
勝は淡々と答えた。


その言葉に、まなみは思わずくすりと笑みがこぼれた。


「僕がまなみさんをホテルまで、お送りします。
これ以上、危険な目に遭わせるわけにはいきません。」


彼の真剣な眼差しに、まなみはそれ以上何も言えなかった。


ホテルまでの道のり、まなみは握手会で勝のことが気になった事などを話した。
勝は微笑んで、まなみの話を聞いていた。
お互いの存在を確かめ合うような、穏やかな時間だった。


ホテルのエントランスが見えてきた時、まなみはふと足を止めた。


「あの、川上さん本当に、ありがとうございました。もし、川上さんがいなかったら、私……」
まなみはそこまで言って、言葉に詰まった。


勝は静かにまなみの目を見つめ、そして、ごくわずかに口元を緩めた。

「まなみさんが無事で、よかったです。
これからもご無理をせず、活動頑張って下さいね。」


その言葉は、まるで魔法のようにまなみの心を温かく包み込んだ。彼の優しさに、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。

「あの、もしよかったら、今度……」
まなみは思い切って、そう切り出そうとした。




けれど、次の瞬間、ホテルの自動ドアが開き、
りおとまみが慌てた様子で飛び出してきた。

「まなみー! 遅いから心配したじゃん!」
「大丈夫!? 何かあったの!?」
二人の声に、まなみはハッと我に返る。


「あ、うん、大丈夫! ちょっと寄り道してただけ!」
咄嗟にそう答えて、勝の方を振り返る。


しかし、彼はもういなかった。
まなみはせっかく会えた嬉しさと、勝との距離がまた空いてしまうと思うと悲しくなった。