先輩の添い寝係になりました

「今日はお疲れさま」

 無事撮影が終わり、打ち上げを楽しんだ後、ふたりは家に帰った。
 お風呂に入って後は寝るだけだ。
 瑞音(みずね)はちらっと(きょう)を見た。

(やっぱりあれから変だ……。なんで目を合わせてくれないんだろう……)

 打ち上げの時もそばにいてくれたが、どことなくよそよそしい感じだった。

(私、何か気に障ることしちゃったかな……)

「あの、別々に寝てみますか?」
「え?」

 響が目を見開く。

「なんで? 俺のこと嫌になった?」
「ち、違います! ほら、毎日気持ちよく眠れてるじゃないですか。私がいなくなっても大丈夫か、試してみたらって……」

「……出ていきたい?」
「いえ、いつまでも迷惑をかけられないから……」
「俺は迷惑じゃないけど」

 響がベッドに横たわる。
 ちゃんといつものように瑞音のスペースを()けてくれている。

(いいのかな……)

 迷いつつ、瑞音はベッドに横たわった。
 だが、響は寝る気配を見せず、目を開けたままだ。

「どうしたんですか、先輩……。撮影が終わってからずっと変ですよ……」

 響が突然ごろりと体勢を変え、向き合ってきた。
 かと思えば、すぐに視線をそらせた。

「……こんなの初めてなんだ」
「え?」
「いつもは役に入っている。俺個人の自我はない。なのに……今日の撮影できみを目の前にしたら……」
「……?」
「きみの頭に手を置いた瞬間、自分が出てきてしまった」

 そっと頭に手が置かれる。

瑞音(・・)ちゃん」
「……っ!!」

 初めて先輩が素の状態の時に名前を呼んでくれたことに気づき、瑞音はハッとした。

(いつも昼寝ちゃん、って呼んでたのに……)

 響は視線をそらさない。
 その真剣な眼差しにドキドキする。

「きみは……どこにも行かないよな?」

 その声は甘いというより、どこか切迫した響きがあった。

「俺のそばにいてくれ」
「それって……ドラマのセリフですよね?」

 なぜ再現するのかと戸惑う瑞音に、響がふっと微笑んだ。

「今のは演技じゃないよ。涼宮響の言葉」
「それって……」

 どぎまぎする瑞音に、響がフッと微笑む。
 少し意地悪い笑みだった。

「返事は?」
「はい……!」

 瑞音は思い切って口にした。

(私、先輩といられてとても楽しかった。いつも安心していられて……ずっと二人で暮らしていたいと思ってしまって……)

 響がくすっと笑う。

「今のはドラマの再現?」
「違います!」
「よかった……!」

 響がぎゅっと抱きしめてくる。

「あ、あのっ、先輩!?」
「響って呼んでよ、瑞音ちゃん。今日はこのまま寝させて」

 甘えるような声に、瑞音の心臓が早鐘のように打つ。

(これって……先輩も私のことを好きっていうこと?)

 瑞音はおそるおそる背中に手を回した。
 熱い引き締まった体を感じていると、響が静かに眠りに落ちていることに気づいた。

(……また明日話せばいい)

 瑞音はそっと響の耳元でささやいた。
「おやすみなさい、いい夢を……響」