極上の一杯を、いつか君に。

睡眠不足で、オーダーも珍しく間違えてしまった。

夜の閉店間際、テーブルを拭いていると、橘さんに話しかけられた。

「楠さん、何かありました?
俺でいいなら、話してくださいよ」

何から話せば伝わるだろう。
そう思って、無言でテーブルを拭いた。

「バイト先では後輩だから、頼りないとか、思ってます?
一応、これでも同い年なんですけどね、俺」

「中学1年生のときに、母と私を置いて家を出た男。
ひらたくいうと私の父親だけどね。

彼が現れて、養育費を渡したい、って急に封筒を押し付けられたの」

いつの間にか、敬語が外れてタメ口になっていた。

「そっか。

俺もさ、親父と2人で暮らしてるんだ。
母親は出ていったきり、そのまま音信不通。

家族って、難しいよな。

いつか、俺が開いたカフェで、親父に俺がコーヒーを淹れる。
そう決めてるんだ」

初めて聞いた、彼の本音だった。

「親父、最初は反対してたけどね。
今は応援してくれてる。

一般教養はあったほうが絶対に良いとも言ってくれてね。
高等専門学校の単位、足りなかったこともあってさ。
親父が編入先を探してくれて。

夢を叶えたい人を応援したいから、
学費は半額免除にする! って学園があった。
なんの気無しに受けてみたら合格したんだ。

寮まであって、いいところだったんだ」