極上の一杯を、いつか君に。

駅でタクシーを拾って、運転手に行き先を告げる。

病院に着くと、入り口でチャコールグレーのニットとラベンダーのフレアスカートの女性が待っていた。

『先程電話口で話した、深明の母親の深月(みづき)です。

貴女の母親は、今は大丈夫よ。

精神的に不安定で、またいつ自ら命を断つことを試みるかもしれないから、しばらく入院してもらいます。

その間、貴女の生活について、担任の先生からお話があるそうなの。

ここじゃなんだから、中のラウンジを使って」

病院内の廊下を颯爽と歩いていく深月さんに付いていくと、ラウンジには松倉先生がいた。

「こんな夜中に、悪かったな。
とにかく座れ。
バイト終わりで疲れているだろう」

「失礼します」

席に座ると、松倉先生は1冊のパンフレットを差し出してきた。

学園のすぐ側にある寮の入寮案内だった。

「寮、ですか」

「そうだ。
本当は、理事長の許可書が必要なんだ。
特別に口頭で許可を貰った。

これから車で送るから、今日はとりあえず寮で生活してくれ。

明日の放課後、本格的な入寮手続きがある」

食堂もあり、個室もきちんとある。

松倉先生には、私の家に寄ってもらって、当面の生活用品や着替えを詰めた。

寮の部屋には、シングルベッドとテレビ、小さなライティングテーブルがあった。

お母さんのこと、あの封筒の厚み。
100万円はあっただろうか。

あの封筒のお金があれば、母親の入院費に充てられる。

私も、高校を辞めてフルタイムでアルバイトをしなくても済むかもしれない。

いろいろな考えが頭をよぎって、なかなか眠れなかった。